一日半歩

大人は「仲良し」を伝えているか?

 日本の離婚件数は増えるばかりで、年間30万組を越えるのもいよいよ時間の問題とか。しかも離婚する6割のカップルには、既に子どもがいるという。やむを得ない事情も色々あるのだろうが、子どものことを考えると、どこか割り切れない思いがしてならない。
 夫婦、仲の良いこと。家族、仲の良いこと。クラスの、職場の、地域の、皆誰しもが仲の良いこと。すなわち、仲良くしよう・仲良くしたいという思いは、それこそ社会の礎ではなかったか。

 だからこそ、絵本『あのときすきになったよ(薫くみこ/作、飯野和好/絵、教育画劇)』を、大人も子どもも読んで欲しい。この絵本には、仲良しの秘訣がいっぱい書いてある。
 「“まこと”が死なせた金魚への憐れみ」と「“まこと”への憤り」という共通の思いから、急速に仲が良くなっていく二人。一緒にいると楽しいと思うようになる二人。離れていると寂しいと思うようになる二人。求める思いを伝えることの大切さ。求められる思いに応えることの大切さ。そして、共感、笑顔、ばいば−い、手を振る、心配、勇気、感謝、ごめんね、いたわり、許すこと−。描かれているそれらは、どれも仲良しの秘訣である。
 大切な秘訣がもう1つある。それは、人を悪く思ってはいけない、人の悪口を言ってはいけない−ということ。絵本には、「しっこ」と心の中で呼んでいたうちは、二人の仲はとても悪かったと書いてある。ちょっとしたことで喧嘩をしては、「わるぐちが からだじゅうで あばれまわった」と書いてある。

 人は誰しも短所もあるが、長所だって必ずある。いや、良い所など探せば幾らでもあるはずだ。例え、気に入らない所ばかりの夫(妻)でも、胸に手を当てて考えてみよう。その夫(妻)のお陰で助かっていることが、幾らだってあるはずだ。許そう、受け容れよう、感謝しよう。そして、いたわりの言葉をかけてあげよう。何よりも、そういう心優しい親の姿を子ども達に見せてあげよう。
 思春期とは、他者との共感意識を育み、利己と利他との調和を図りながら、自立・自律に向かって自らの志を確立していく過程である。ところが最近、他者への共感や関わり方の下手な子どもが増えてはいないか? 自立・自律への欲求のあまり、異質な他者を平気で、かつ極端に排除しようとする子どもが増えてきてはいないだろうか? 
 仲が良いことの心地よさ−。仲が良い家庭こそ、幸福の第一条件である。その心地よさを、幸福感を、小さな頃から子ども達に伝えて欲しい。何よりも思春期までに、それを十分実感させてあげて欲しい。それこそ、子どもにとって宝物となるだろう。しかもそれは、親にしか子どもに渡してあげられない「最高の宝物」だと思う。

「絵本フォーラム」39号・2005.03.10

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