一日半歩

大人は「志」を伝えているか?

 学校を卒業し就職しても、半年もたたないうちに離職してしまう若者が多い。フリーターやNEETなど、定職を持たない、果ては何をしたら良いのか分からない若者も増えている。好きで離職するわけではないだろう。自ら望んでフリーターやNEETを続けているわけでもないと思う。彼らにも夢はあるだろうし、夢があるからこその選択だと答える者も多いはずだ。

 絵本『夢につばさを』(こやま峰子/作、葉祥明/絵、金の星社)は、夢を実現させるには、その強い信念のもと、必要な準備をきちんと行い、正しい努力を懸命に積み重ねていくことの大切さを教えてくれている。但し、そこに描かれているのは、信念はあっても準備や努力もままならない、生きていくだけで精一杯の貧しい国の物語である。
 日本の高校生は、美容師や看護士になりたければ、専門学校に行って資格をとれば大丈夫と考えている。親はもちろん教師までもが、そう信じて疑わない。しかし、現実は違う。そういう仕事はかなりの重労働であり、人と直接関わる仕事であることを考えなければならない。すなわち、体力や忍耐力はあるのか。体調や気力の自己コントロールはできるのか。そして何よりも、コミュニケーション能力は十分あるのか。例えば、世代が異なる人と仲良く話しができますか。笑顔や挨拶はもちろん、人から好かれ信頼される話し方ができますか。新聞やニュースなどを通して、世の中の動きや話題を知っていますか。
 すなわち、この場合の必要な準備や正しい努力とは、専門学校入学のための勉強だけではない。むしろ自分の適性・資質・能力を十分考え、必要ならそれらを磨いていくことこそ大切な準備や努力なのである。なぜなら専門学校では、それらは教えてもくれないし磨いてもくれない。しかも、一朝一夕で身につくものではないからである。

 大人は、夢を語る子ども達に何を準備し、どう努力すれば良いのか、きちんと伝えてあげるべきだと思う。もちろん自信を失わせないように、むしろ意欲が湧くように伝える必要がある。学校を卒業し就職しても、現実に直面してすぐ離職したり、フリーターやNEETになったりする若者が多いのは、大人の無責任さも原因の1つのような気がする。
 大リーグで活躍するイチローは、日本の野球少年に大きな夢を与えてくれている。しかし、日々の野球の練習は勿論、徹底した体調管理や食事管理、筋力トレーニング、道具類のチェック、気力のコントロールなどに大変なエネルギーを費やしていることを忘れてはならない。それは、イチローが一流だからではない。一流になりたい(夢)という強い信念があるがゆえの、単なる準備や努力に過ぎないのだと彼は言うだろう。
 夢の実現には、信念・準備・努力という翼が必要である。そして夢が翼を持ったとき、夢は「志」という言葉に変わるのである。

「絵本フォーラム」38号・2005.01.10

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