音楽のリズムと昔ばなしの文法

「鬼とあんころもち、幼い子のための昔ばなし」(小澤昔ばなし研究所) それからここまで来ると、僕の中では音楽と結びついたんだけれども、音楽にも同じ言葉があるんです。音楽は、幾何学的に、きちんと等間隔でやりますけれどね。

 要は、2小節、2小節、4小節、こういう分け方です。このことを「バーフォーム」って言います。「バー」って小節を区切る縦の棒のことです。このごろバーコードなんて言うじゃない。棒で値段を書いてある。「バーフォーム」これがね、ヨーロッパの中世に吟遊詩人といわれる人たちがいたんですね。その人たちがとても好んだメロディの形で、あの、ヨーロッパの音楽史の中では、それが受け継がれましてね。特にドイツの古典派と言われる人たちが好みます。ハイドン、モーツァルト、ベートーベン。もちろん、ブラームス、シューベルトまでいきますよね。とても、好まれるんです。それとおんなじなんですよ。

 例えばですね、シューベルトの子守歌っていったら、たぶん皆さん知ってると思うんだな。「ね~むれ~、ね~むれ~、母の~む~ね~~に」こういう風にね。そうすると、「ねむれ~」っていうメロディ、同じメロディを2度さげて、「ね~むれ~」こう繰り返します。今度はちょっと変わって、「母の~む~ね~に」ってこういう風にね。この時どこを強く歌うかって言うと、この辺りを一番強く歌います、この辺り(4小節の初め)、一番クライマックスです。音楽やる方いっぱいいると思うんで、きちんと思い出してください。これもう、器楽、声楽おんなじです。ここをふくらませる。そうすると、白雪姫と、陸上競技の3段跳びと、シューベルトの子守歌、おんなじメロディなんです。

 おんなじ構図。僕が言いたいのは、シューベルトの子守歌歌う人がね、ここが大事なんですね、じゃ、ここカットしますって誰も言わないんじゃないか、そうでしょ。3段跳びの選手がね、ここ一番大事なんですね、じゃ、あたしこれカットしますって、誰も言わないんじゃない。だけども、白雪姫に関しては、グリム童話に関してはリンゴだけ残して、これおんなしにしちゃってる。不可能ですよ、これ、そうでしょ。だから、騙されてるって言うんです。だから、ダメですよ、不可能なんです。新聞記事ならいいよ、さっき言ったように。殺人事件ならいいよ。物語は、そらダメです。そういう風に、昔話ってのはですね、ばかっぱなしだけども、うそのはなしだけども、きちっと文法があります。

 だから、その文法を守った本を選んでください、っていうことを、僕は言いたいんであります。

 

昔話は道徳教訓の話?

 で、その勉強のために昔話大学ってものを20年前からやってるんですけれどね。

 あの、ずっと話を、こうやってると、きりがないんで、このあたりで止めますが、どうぞみなさん「昔話の語法」(小澤昔ばなし研究所)、もしグループでもいいし、一人でもいいけれども、勉強してみてください。入門としていちばんいいのはこれです。『こんにちは昔話です』っていう本を書きました。いちばんわかりやすいです。さっき聞いていただいた話を例にしてですね、もうちょっと詳しく説明してます。どうぞ、読んでみてください。

 それから、今お話ししたその昔話の文法をきちんと守った再話、というのを僕たち、僕は昔話大学でやっているんですけど、その成果がですね、このシリーズで発表してます。「子どもに贈る昔話」っていうシリーズで、17ぐらいまで出ているのかな。これもうちょっと厚いのがあるんですけれどもね、この『鬼とあんころもち』というのはですね、特に子ども向き、幼いころ、幼稚園、保育園、一年生くらいまでに使えるような話を選んだんです。案外ないでしょ。知ってる?日本の昔話って、年齢高いよね。3年、4年より上でないとわからない。幼い子向きに選びました。もし良かったら使ってください。それから、これからお話しするメッセージの問題。これは、先にお話ししました『ろばの子』って本、この中に詳しくいろんな例が書いてあります。今日はいくつかお話ししようと思うんですけどね。

 メッセージの方に移りますね。昔話は、よくね、道徳教訓の話だっていうふうに言われるんですよ。ぼくなんか、昔話の研究所ですって言うと、あ~って、教訓話ね、なんて言われちゃうんですけど。それから、日本ではですね、「花咲かじい」や「舌切り雀」とか、ああいうのが有名でしょ。なもんだから、教訓話だと思われてる。あれは、江戸時代からですね。特に教訓がいいというんで強調されて、赤本、黒本になったり、教科書に載ったり絵本になったりするんで、有名なだけです。決して日本の昔話の代表ではありません。間違えないでください。ほとんど人為的に有名にされたんです。ああいうのは、はじめはじいさん、みんないいじいさんでしょ。あとのじいさん、みんな悪いじいさんでしょ。変わらないじゃない。いいのは最後までいいよね。悪いのは最後まで悪いの。昔話って、変わるものです。昔話は、若者や子どもが主人公になってるわけですね。

 変わります。変わっていきます。それが、昔話なんですよね。いわゆる成長する姿を語るんですよ。あるいは全然成長してないんです、まあ、じいちゃんだから、もう成長しようがないんだけれども。で、僕は、ですからこの成長する話、子どもがね、子どもや若者の話に注目します。で、そういうふうに注目するとですね、その、納得できる話がたくさんあるんですよね。今日は、いくつか言っていきたいと思います。

 

《悪知恵も知恵のうち・三年寝太郎》

 まず、寝太郎かな。「三年寝太郎」っつったら、きっと皆さん知ってるだろうと思うんだけど。僕が聞いて、僕は福島で調査してる時に聞いたんです。

 ある村に一人の若者がいた。ちっとも働かないで寝てばかりいるもんだから、みんなからばかにされて、あいつは役立たずだ、寝太郎だってあだ名された。そうやって何年も過ぎた。ある日のこと、むっくり起き上がって、街へ出かけて行った。そして、鳩と提灯を買って帰ってきた。で、夜になるとその鳩と提灯を持って、隣の長者の家の松の木によじ登った。それで、大声で叫んだんですね。「長者よ、よく聞け。我こそは鎮守の森の神様だ。今夜は、お前のうちの家運を予言しに来た」って言うんですね。で、長者は夜中に大きな声が聞こえたもんで、何事かと思って、縁側に出てみたら、真っ暗闇で声だけ聞こえました。「お前の一人娘に、隣の寝太郎を婿に取らなければ、お前の家の家運はたちまち傾くであろう。よいか、わかったか。では、余は鎮守の森に帰るぞ」と言って、寝太郎は提灯に火をつけて、鳩の脚に結び付けて、パッと放した。では帰るぞと言ったとたんに、火がシューっと鎮守の森の方に飛んで行ったもんだから、長者はすっかり本気にしてしまった。で、翌朝起きると一番に寝太郎のとこに行ったんですね。寝太郎、まだ寝てたのを、たたき起こしてね。で、鎮守の神様のご命令だ、ぜひうちの一人娘の婿になってくれってことで、じゃあしゃあねえ、なってやるかっていって、寝太郎が長者の婿になったっちゅう話ですがね。まじめに聞かないでくださいよ。(笑)話しにくいよ。             

 ほんと、とんでもない話よね、これ。常識的に言えば悪い話をしているわけだから、学校じゃきっとだめでしょう。排斥されるでしょう。でもね、あの、昔話ってね意外に思うかもしれないけど、あんまりね道徳気にしてません。それよりも、強く生きろ、このメッセージなんですよ。あんまり善悪気にしてないよ、本当は。嘘つきで幸せになる話なんて、いっくらでもある。世界中だよ、日本だけじゃなく。強く生きろ、この方がよっぽど大事なメッセージなんです。だからね、あの、寝太郎の悪知恵は、悪知恵も知恵の内と考えてください。悪知恵の悪を「  」(カッコ)に入れてみてください。そうすると、いいメッセージを読み取れると思うんだ。

「昔話からのメッセージ ろばの子」(小澤昔ばなし研究所) こう言っていいんじゃないか、今の話をさ。あの寝太郎は、寝ていたのは若いときだけだった、途中で起きたんだ。途中で知恵がつく。一生寝てないよね。そこんとこです。一生寝てない。若いときに、寝てた。でも途中で知恵を出して生きてった、で、幸せを獲得した。……っていうふうに考えたら、多くの方の人生、そういうもんじゃないですか、なんて失礼だけど。皆さん、どうぞ学校時代のこと思い出してくんない、正直に。

 授業、教室に入ると眠くなる、つい居眠りが出る、みんなやってんじゃないか。うちへ帰って宿題やろうと思ったら、つい眠りが出ちゃう。親の目をかすめてちょっと悪いことをしたとかね、先生の目を盗んで学校抜け出して裏山に逃げてったとか、いろいろやってるよ、若いときは。だけど、そういうやつが30歳になって40歳になってもね、そんなことやってるかっていうと、やらないんだよ。もう、普通の社会人になってるわけよ、家庭人とか。そうでしょ。

(構成・池田加津子、協力・東條真由美)

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