リレー

高校図書館の現場から感じること
(兵庫・県立尼崎北高校司書・二宮 博行)


 今ほど「子どもを取り巻く環境」が激変しているときはないと思われる。それは「子育て」の困難な状況を生み出し、子どもをめぐる事件や犯罪の多発という形となって現れているように思える。
 子どもの心身の発達状況についても、寒々しく感じるときがある。実際に高校生を見ていると、「コミュニケーション能力」に欠けた幼稚な言動や、自己中心的で自尊心だけが増大したような言動が見受けられ、問題行動を起こす生徒も少なくない。こうした生徒は、幼少期における両親の「愛情」不足によって、人との接し方、距離の保ち方がわからないというケースが多い。
 愛情豊かに育てられた子どもは、表情や行動にめり張りがあり、自分がいつも誰かに受け入れられているという自信と他者への信頼にあふれている。それは、幼少期における保育者の姿勢にかかっている。とりわけ両親、保育者など、子どもの身近にいる大人の責任である。
 幼児体験には限りがある。絵本はそうした体験をしっかりと蓄積するための重要な素材である。もっともっと読んであげてほしい。子どもが自分で読めるようになるまで、身近な大人がいろんな絵本を読み聞かせてあげてほしい。
 私自身の子育て体験でも、ブルーナの『うさこちゃん』シリーズ(福音館書店)は好評だった。絵本の登場人物がいつも真正面を向いているので、子どもは自分が語りかけられているように感じるのだろう。何度も読むのをせがまれた記憶がある。絵本の中のちょっとした変化をめざとく見つけるのも子どもの特技である。『ももたろう』(松居直/文 赤羽末吉/絵、福音館書店)の旗が裏と表で違うことや、ハッチンスの『ティッチ』(福音館書店)では、お兄ちゃんの自転車にはランプがついていることなど、発見するのはいつも子どもだった。
 子どもは絵や言葉のリズムと物語とを関連づけ、豊かな体験として蓄積していく。単なる事実の羅列ではなく、ストーリーとして物事を体験する。こうした積み重ねがその後の人生をより豊かにしていくのである。
絵本フォーラム33号(2004年03.10)より

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