リレー

子どもの心に幸せの種を蒔こう
諸岡 弘(JPIC読書アドバイザー)


 町の本屋さんで読み聞かせの活動を始めて、もう7年がたつ。最初のころは緊張のしっぱなしで、何がなんだかわからないうちに終わってしまうこともしばしば。当然、聞いている子どもたちは楽しいはずがなかっただろうと、今でもそのころのことを思うと冷や汗が出てくる。
 私は幼い時代には絵本に接したことがなかった。もちろん親に読んでもらった記憶もない。そんな男が55歳を過ぎてから、孫のような子どもたちに絵本を読む活動をしているのが不思議だ。絵本が私の人生を変えたと言っても過言ではない。それもこれも絵本との出会い、そして人との出会いがもたらした結果だ。
 私の絵本との出会いは、40歳を過ぎてからだ。遅すぎたきらいはある。しかし、絵本は決して子どもだけのものではない、と断言できる。長い文章の小説が苦手で読めない私でも、絵本なら楽々と読めるし、楽しめる。絵とことばの絶妙なハーモニーが、読む人、見る人に何かを語りかけてくる。それがたまらなくいい。それを多くの子どもたちと一緒に楽しむとき(読み聞かせ)は、その喜びが数倍にもなるのだ。これは、それを経験した人にしかわからない。
 家庭でお母さん、お父さんが子どもに絵本を読んであげるということは、子どもの心に幸せの種をまく行為であり、親も楽しめるという二重の喜びを得ることになるのだ。
 何かに急かれるように生活しなければならない現代において、1日のちょっとの時間を絵本の中に入って、ゆったりと過ごすのもまたいいのではないかと、最近つくづく思う。
絵本フォーラム32号(2004年01.10)より

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