リレー

「師弟読書」の実践から
(山形・東根市立神町小学校校長・永澤 明)


 「校長先生、ぼく、この本読んでいるんだ。おもしろいよ」と私のそばにやってきて、話しかけてきたS君。4年生の教室を訪問した時のことです。
 それは、S君が本校の図書館から借りた本でした。「どれどれ、おもしろそうな本だね。校長先生も読んでみたくなったな。S君が読み終わったら貸してくれないかな」と言ってやったら、にこにこ顔のS君。
 その本は登山家の野口健のことを綴ったノンフィクションものでした。本当に読みたくなったのです。2日後、読み終わったS君は校長室にやってきて、本を渡してくれました。
 楽しく読めたことはもちろんですが、最も嬉しいのは、子どもの読んだ本を共有できたことです。S君に感謝したい気持ちで一杯です。「親子読書」というのは市民権を得た言葉だと思いますが、「師弟読書」などというのは聞いたことがありません。しかし、私は師弟読書を定着させ、教師も子どももともに読書好きになってほしいものだと強く願っています。本を読みもしない教師が、子どもに向かって本を読むように言っても空虚です。子どもの心に響きません。「大人が変われば子どもも変わる」というスローガンを掲げている山形県ですが、これは、読書に関しても当てはまるでしょう。師弟読書を提唱するゆえんです。
 朝読書の時間、教師も子どもも好きな本に向かい、静かで充実した時を過ごす。こういう中で心も育っていくはずです。
 私に1冊の本を紹介してくれたS君。師弟読書のすばらしさを改めて教えてくれました。S君、本当にありがとう。これからもいっしょに読もうね。
絵本フォーラム28号(2003年5.10)より

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