伊座利ツアー報告

2010年夏(第2回)

<「いざりキャンプツアー」漂流記>


伊座利カフェの前で大集合

*集合・いざ伊座利へ

 夏休み最後の土曜日。
 いよいよはばたきの会夏休み企画「いざりキャンプツアー」の日がやってきました。朝から快晴で汗ばむ陽気のなか、はばたきの会会員とその家族、事務局スタッフの 64 名が JR 芦屋駅前に集合。 9 時に大型と中型の 2 台の観光バスに分かれて出発となりました。

 バスの中では参加者全員の自己紹介などがなされ、和気あいあい。みな口々にいっていたのは「ミステリーツアーみたい」ということ。
 そう、事前に事務局から送られてきた日程表には『出発・到着・お楽しみ・夕飯・起床・朝食・お楽しみ・出発・到着』だけしか記されてなかったのですから。持ち物もタオルケット・洗面用具など・・・だけ。そ、それだけ?? まぁ、なんか楽しそうだからいいか、という気持ちでバスに揺られていました。

 途中、明石海峡大橋、淡路島、鳴門海峡大橋とバスは快調に走ります。車窓に広がる美しい景色にみなの気分も高まります。
11 時 45 分。那賀川にあるドライブイン「道の駅」に到着。バスが場内に入っていくと大きく手をふる笑顔の佳子先生。
 梅田俊作先生ご夫妻とお嬢さんの夕海さん (絵本作家) 、そのお子さま(梅田先生のお孫さん)が待ってくださっていました。
 また、東京から遠路参加の岡部さん、広島から参加の石橋さんら、会員一家とも合流し総勢 70 名が揃いました。

*大型バス 伊座利港にて

 この「道の駅」から、2班に分かれます。
 大型バスは、直接、今夜の宿泊地“伊座利”を目指しました。一方の中型バスは『おかあさんもようちえん』 (梅田俊作・佳子 /さく、NPO法人「絵本で子育て」センター) の舞台となった自然スクール「 TOEC 」見学へと向かいました。

 伊座利は、四国・徳島県の南、室戸阿南海岸国定公園の中に位置する海辺のまち・美波町の東端にあります。入り組んだ海岸線と三方を山に囲まれた漁村集落で、陸の孤島と言われるだけあり、険しい伊座利峠を越えていかなければなりません。
到底、対面通行はできない急峻で狭い道、木々の枝がバスを叩きます。急なカーブの連続、車内ではみなが峠道の先を見ようとフロントガラスにくぎ付け。
運転手さんの素晴らしいハンドルさばきで、無事、伊座利港に到着です。
浜辺では、梅田先生ご夫妻のお仲間で『漁火 海の学校』 (梅田俊作 /さく、ポプラ社) の登場人物のモデルにもなった漁師の方々が出迎えてくださいました。
子どもたちはバスを降りると直ぐに、服を脱ぎだし海水パンツに着替え海に走り出していました。防波堤の突端から飛び込みをしたり、用意してもらったライフジャケットを身につけ、誰に教えを請うわけでもなくカヌーでスイスイと入江にこぎ出したりしていました。
親たちは、浜辺で子どもたちの見守り役、時に一緒に遊び、普段なかなか感じ得ない、遊びの“時間”“空間”“仲間”を懐かしくも感じていたようでした。

*中型バス 「 TOEC 」見学へ

 さてその頃、中型バスで「 TOEC 」見学へ向かった一行。
『まるごとえん』は、本当に田んぼの中にぽっかりとありました。自然とのふれあいを重視した自然活動教育の拠点。自由にのびのびと育ちあい、自分だけの花をさかせるスペースです。それが TOEC 幼児フリースクールです。
温かい雰囲気の中で誰からも強制されることなく遊び、学び、それを通して自分を知り、調和的・創造的に自立して生きることを覚えていく育ちの場としてそこはあります。
物を与えるのではない、そこにあるものを駆使して泥んこになって遊ぶ。忘れかけていたどこか懐かしい胸がキュンとなる「学校」でした。

 この日、子どもたちはいませんでしたが、先日までキャンプをしていたという形跡があり、自然の成り行きにまかせゆたかに遊ぶ子どもの姿が目に浮かぶようでした。
 「 TOEC 」の先生はおっしゃっていました。毎朝、子どもたちに 3 つの質問をします。「何か困ったことはないか、何か言いたいことはないか、今日は何がしたいか」
それに基づき 1 日の子どもたちのすることを見つけていくそうです。ここではやりたい事を主張すると同時に困っていること、嫌なこともはっきり主張しているそうです。
また、「どんな気持ちにも × (バツ)をつけない」「ありのままの自分、その子を認める」という考え方は、「お互いを認めあうこと」「やさしさを与えあうこと」につながっているのだと感じました。心の自由を育て、自分を生きる「道場」。そんな TOEC の雰囲気を感じることができました。

 さて、大型バス組に遅れること一時間、中型バスも伊座利の港に到着しました。
磯遊びもそろそろおしまいにして、みんなでバーベキューのできる宿泊会館まで移動です。

 着いたところは高台。眼下には青くキラキラした海が広がっています。
「探検に行くぞー」と梅田俊作先生、佳子先生。子どもたちはみんな先生にくっついて林の中を一列に歩き出しました。手にはまむしよけの木の棒を持ち突っつきながら歩くこと数分で浜辺に到着。
太平洋の壮大な海、ものすごい波しぶきに力強い海の音。寄せては返す波が足元にある丸いごろごろした石を作りだし、その名も「ごろごろ浜」と呼ばれているそうです。
子どもたちは海に向かって石を投げたり波しぶきを受けたり、それを見守る大人たちもゆったりと流れる時間の中で夕暮れの海の輝きに心を奪われていたのでした。

*伊座利の夜

 そのころ厨房ではブレーカーの故障で電気がつかないというトラブルも何のその、バーベキューに向けての準備が着々と進められていました。
 
用意されたのは漁師の方から差し入れに頂いた新鮮なアワビにサザエの「海の幸」。
浜から子どもたちが戻ってくると、そこかしこで缶ビールを開ける音とともに夕食タイムが始まりました。
梅田先生ご夫妻、漁師のおっちゃんたち、バスの運転手さん、伊座利の元小学校の校長先生 (校長先生からもビールの差し入れを。ありがとうございました) も一緒に飲んで食べてしゃべっての大宴会。
梅田先生自ら「これは生で食うんがうまい!」とサザエを地面に叩きつけ殻を砕いて食べさせてくださいました。新鮮な海の幸を存分に堪能し、楽しい宴は続いていきます。
 まずは食べるのに夢中だった子どもたちも、しばらくすると追いかけっこや卓球など、それぞれに散らばって遊び始めました。
中にはお肉を焼くお手伝いをしている男の子の姿もありました。その子に「お肉ちょうだい」って言ったら「これとこれとこれは先約やからほかのやで」って、先約のお肉には輪っかの玉ねぎが乗せられていて思わず笑ってしまいました。

 食事が終わり花火大会でひとしきり盛り上がった後は、大広間ですやすや寝息を立て始める子どもたちも。大人たちは漁師のおっちゃんを囲んで子どもたちのことや伊座利のこと、果ては日本の未来などまで語りつつ、伊座利の夜は更けていくのでした。

*伊座利の海で 体も心もお腹も満腹

 翌日は 7 時ごろから朝食。二日酔いで倒れこんだ大人もいる中「まだ、海に行かないのー?」と子どもたちは元気いっぱいです。「探検、探検!」とまた「ごろごろ浜」に下りて行く子どもたち。
2 歳の次男もいつの間にか一緒に行っていたらしく、戻ってきた姿を見たときはやんちゃな笑顔がキラキラと輝いて見えました。
 
普段、母親なしで出歩くことなんてないのに、お兄ちゃんお姉ちゃんにくっついてすっかりイッチョマエです。
立つ鳥跡を濁さず、でお世話になった部屋の大掃除をして、再び伊座利の漁港に戻った一行。
「 11 時になったら上がってくださーい。カレー食べて絵本よみますからねー。それまで楽しんでくださーい」の大長副会長の大声 (美声です) でみんないっせいに海に駈け出しました。
防波堤から飛び込む子。コンクリートの隙間にうごめく生き物を、ほじくり出してる子。カヌーをする親子。そして、その風景を優しく見守る漁師のおっちゃんたちの笑顔。
伊座利カフェでくつろぐ代表や理事長の姿。温かく、ゆたかな時間が流れていました。
伊座利カフェのおばちゃんたちに用意していただいたお昼のカレーを食べた後は、絵本の「読み聞かせ」。
さらに、特別催事として俊作・夕海両先生のサイン会が行われました。
梅田先生のお嬢さんで絵本作家の夕海さんもこのために来てくださいました。
読み聞かせの一冊目は、舛谷副会長が梅田夕海先生の『ゆっくりいそいで』。二冊目に井下副会長が梅田俊作先生・佳子先生の『よーいどんけつ いっとうしょう』。三冊目は大長副会長が梅田佳子先生・夕海先生の『だいじなものは?』。
それぞれの優しい語り口で読んでいただきました。
お腹いっぱいの食後のひとときを、はばたきの会ならではの過ごし方をしたのでした。

*無事帰路へ

 そして、梅田先生ご一家に見送られ帰途に。帰りの車中もパワー衰えない元気な子どもたち、真っ赤に日焼けし電池切れのように眠る大人たち。
5 時間後、無事、芦屋駅前に到着しました。
大人も子どもも、遊びに遊んで、時間を忘れるくらい遊んだ 2 日間は長かったような、あっという間だったような。
《人の心が、どこかゆったりとしていて。わたしたちだっていつも大の字だあーって、そんな感じ》 (『漁火 海の学校』から) 。伊座利にはずっと昔から変わらないものがあり、私たちはその生き方に触れ、懐かしい気持ちを思い起こすことができました。

 今回 2 度目の訪問も寛大に温かく迎えていただいた梅田先生ご夫妻、夕海さん。伊座利のみなさん。
事前の企画、打ち合わせから買い出し手配など尽力くださった舛谷副会長はじめ幹事の皆様。事務局スタッフの皆さま。本当にありがとうございました。
 今回ツアーでは、子どもたちはテレビもゲームもおもちゃもない中、一日中元気に心底楽しく遊んでいました。大人は子どもから少し離れて見守りゆっくり語らう。なかなか普段の生活ではここまでの時間の過ごし方はできません。

* 3 つの間に感謝!  

 帰宅しても旅の疲れなどなく、気分がリセットされ活力がみなぎっていました。この“いざりミステリーツアー”。子どもたちはのびやかに自然に溶け込み遊びを生み出していく、そういう力をみんな持っているのだと感じさせてくれました。
また、大人たちにとっては「自分」を取り戻すための、遊び・癒しのプログラムが自然と組み込まれてあったのだと思います。それぞれがそれぞれに、いろいろ感じたことでしょう。
 与えられたのは、遊びの 3 つの間、“時間”“空間”“仲間”だけ。
 楽しい幸せな 1 泊 2 日の「いざりキャンプツアー」漂流記。これにて完結。

報告・加藤 美帆(かとう・みほ) 芦屋3期生


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