伊座利ツアー報告

2009年夏(第1回)

<はばたきの会・特別企画「俊作先生のアトリエを訪ねて」>

俊作・佳子先生へ、伊座利の皆様へ、そして仲間のみんなへ・感謝をこめて

 

<出発・小雨降る芦屋駅>

 はばたきの会・特別企画「俊作先生のアトリエを訪ねて」に、夫と 3 人の子どもと共に参加した。 8 月 30 日(土)、小雨模様のJR芦屋駅前に全員集合。笑顔で「おはようございます」「よろしく!」とあいさつを交わす。遠方(長野、愛知、福岡)から到着された方も。大人と子ども総勢 40 人。まずは、ツワーへの期待が胸を膨らます。

 バスでは、参加者のお名前の紹介の後、明石海峡から淡路島、うず潮の大鳴門橋を渡って徳島へと。ガイドは松本也寿子さん(芦屋 1 期生)。各地の景勝・歴史や万葉の歌も数々紹介、また、当地の特産なども含め豊富な話題で楽しませていただきました。

<日和佐・俊作先生のアトリエ到着>

 「星越トンネルを通り抜けたら梅田先生にお電話するの。『海賊船』まで迎えに来てくださるの」、後ろの席で森理事長のいつもの優しい声がする。海賊船長ならぬ梅田先生の奥様・佳子さんのお迎を受けて、めざす日和佐のアトリエは目睫(もくしょう)の間に迫る。
 縁先の色とりどりのビー玉や、そこここに置かれた形も色合いもさまざまに違う石などに目を奪われていると、俊作先生は「さあ、川に行くぞ。ライフジャケットを着ていらっしゃい」と弾む声。

 雨上がりとは思えぬきれいなせせらぎ。ここは山間(やまあい)だが川の石はみなすべて丸い。
 私は、まだ足もとのたどたどしい息子・陸也(りく・ 1 歳)と 2 人、みんなの後を追ってそっと流れに足を入れてみた。気持ちいい!川底の小石を一つ拾う。真似して陸也が小石を拾い、えぃと投げた。恰好だけに力が入って石は目の前に落ちるのだが、すぐに流れに沈んだり、そばの石にあたって思わぬ方角へはね返ったりして、何度投げても違う音がする。その度に、陸也は「おー」と声をあげて笑う。今度は拾った石を「こんにちは」と言って、コツンと打ち鳴らしてから一緒に投げる。こんなことが、なんて面白いのだろう。
  山の空気に川の流れが溶け込む。風がさわさわ木の葉を揺らす。ツクツクボウシの合唱が聴こえる。私の知らない虫の鳴き声が近く遠くで幽かにする。
 川の流れがカーブした向こうからは、時折、先に流れを下った大人、子どもたちの歓声が上がる。背後では川原に降りられなかった婦人会(失礼!)御一行様の華やかな笑い声がした。
 なんて愛しい音たちなのだろう。思わず息を潜めて私の身体を包む音たちを、胸いっぱい吸い込んだら、幸せすぎてからだがゾクゾクした。

<伊座利・歓迎の宴>

 梅田先生ご夫妻の先導でバスは深山を縫うように『漁火 海の学校』(梅田俊作作・絵/ポプラ社)の舞台である伊座利の村へ。山越えのカーブでは、運転手さんのプロの腕前を何度も披露してもらった。バスが徐行すると、一同、息をつめて車窓の峡谷を覗き込み、再びなめらかに加速したら、一斉に拍手が沸き上がりました。暮れなずむ漁村に大型観光バスは無事到着。
 バスを降りたら、伊座利の漁協やカフェの方の日焼けした気さくで優しい笑顔の歓迎を受ける。
 「着いたぞ!」
 早速、海辺でバーベキューの支度にとりかかる。梅田先生は、絶妙に美しく削られ彩色された竹トンボをどっさり出されて「さあ、好きなものを選んで練習しなさい」。漁港の埠頭前広場に、当地ゆかりの豪華賞品が広げられ、飛ばした竹トンボが落ちたところの賞品がもらえる。前に飛ばすことがなかなか上手にできないちびっこも真剣な顔で掌を合わせ、エイッと押し出す。一方、狙いすませたはずの竹トンボたちは強い風にさらわれ、美しく乱舞。ちなみに粘りに粘った娘の花歩(かほ・ 4歳)は、日和佐の夕景柄のタオルとTシャツを、夫と息子の雄宙(ゆう・7歳)は濃紺のIzaricapをお揃いでゲット。陸也も自分の選んだ竹トンボをしっかり握って、大満足でバーベキューにやってきた。
 こちらはもう、何といっても鮑(あわび)。その大きいこと。「見てみ!」と台の上に仰向け(?)に置かれたのが、そのうちに貝殻の中で動き出し何とも言えず「くにゅ〜っ」と立ち上がるのを、大人も子どももまじまじと見つめる。
 誰かが指で触ってみると、しーんと貝に戻ってしまう。うーん、生きている。
 これを手際よく殻から外し、「クロにいちゃん」は滑らかに包丁を使う。美しく盛り付けられた豪華な鮑の刺身が出来上がる。独特の歯ごたえと香りと甘味。美味しい!さらには、大きなサザエとイカが登場。もちろん、その他のバーベキューも、梅田先生の新米のおにぎりも美味しかった。伊座利の人たちがふるまってくださった海の幸はすべて美味佳肴。「私たち、今一生分のアワビをいただいているのよね」と言い合いながら堪能する。大人たちはお酒がすすみ、俊作先生の「伊座利物語」に耳を傾けるうち、子ども達は少しずつ打ち解け合い、波打ち際やいざりカフェへの急な坂を登り降りたり、電灯をつけたフォークリフトによじ登ったりして、賑やかなこと。闊達な雰囲気に、日頃は抱っこの陸也も大人の間をぬって歩く、歩く。
 ずっとカメラ片手に見ていてくださった藤井代表、ありがとうございました。
 暗くなったころ、わが子より先に舛谷尚丸君(ますたに・たかまる・ 8歳)が、「今夜、ゆうはオレと寝てもいい?」と聞きに来てくれたのがとても嬉しかった。
 それから一行は交流会館に移動し、賑やかな夜の宴の始まり。子どもたちの一隊は、別棟の漁協の 2階を占拠。こちらも負けずににぎやかだったに相違ない。一緒に泊まってくださった大長咲子さん(芦屋1期・副会長)、小笠原みちよさん(東京3期)、細見周造さんご夫妻(芦屋4期)、大変お世話になりました。

<伊座利の海で・カヌー遊びとクルージング>

 翌朝はやっぱり雨。雨は風に舞う霧雨と交わり、薄雲の中から幽かな光が。朝食に向かう時の傘は無用に。<はばたきの会VS雨雲>は、われらに勝利あり!!
午前中はカヌー遊びと太平洋のクルージングだ。「やったー!!」、各々、水着などに着替えて海へ駆け下りる子どもたち。さっそくカヌーを浮かべているが、わずかの間にオールを握る手つきから不安が消えていく。大半の子が昨日初めて会った仲なのに、今では<同じ釜の飯を食った仲>。子どもの純粋さが凄い。
 朝食後の取っ組み合いはプロレスごっこだけれど、一歩間違えばと冷や冷やしている私の横で、大声で名を呼び合い新しい仲間と格闘を繰り広げる。
 海では、真剣な表情でオールを握り、埠頭からダイビングに挑む。あちらこちらで可愛い笑い声がしぶきと一緒に弾けている。ああ、いいなあ!伊座利の大きな深い懐にすっぽり抱かれて。子どもたちにとって、人間の大人たちが次々作り出したモノがあふれ返った自分の家のある街よりも、こちらの方が実はずっとお似合いだ、と思った。
 そして、お待ちかねのクルージングだ。船はテトラポットの間を滑り抜けると一気に太平洋の波と風と光の中へ躍り出た。右に左に船は揺れ、波しぶきとともに黄色い悲鳴が上がる。漁協組合長の「きよしおっちゃん」は悠然と舵をとる。
 途中、舛谷修子嬢(しゅうこ・ 16歳)が、役場の「ゆうさん」と無人島に残された一幕では、花歩は本気で心配していたらしいが無事救出の後は安堵の様子。船はコースの難所を見事な舵捌きで難なく通過し帰港。今回の旅で「お船が一番面白かった。だってお船の後ろを見ていたら、こんな大きな岩の間を白い波がずーっと続いていて、ほんとにすごかったもん」と熱く語ってくれた。
 ちなみに後半のカヌータイムでは耳に届いた「絵本講師はイヤって言わないのよ」の声にドキリ。結局、水着はおろか日傘の女性陣も次々カヌーに乗せられ、なかなか優雅なオール運び。しかしこれが何故か、私もシートの乾いたカヌーを選んだはずなのに、周りの子らに避けてもらいながらどうやらコツを掴み、滑らかに戻ってきたかと思いきや、ズボンはビショビショ。
 それでも大鍋一杯のトロトロのカレーと特産のアラメ(荒布)入りのサラダという心尽くしのランチをお腹一杯いただく間に、海で濡れた衣服はいつの間にか照りだした伊座利の太陽と潮風が乾かしてくれた。
 幹事さんたちの優しさパワー、丁寧な計画と素晴らしいチームワークに拍手。一緒に遊んでくれた子どもたちありがとう。
 泊めていただいた「いざりカフェ」2階のコンドミニアムは本当に快適で、今度はぜひ滞在したい(雄宙は「今度は釣りをしたい」)、と早くも再訪を話題にしている我が家である。

<芦屋へ・伊座利の灯を胸に点して>

 帰りの挨拶の「子どもたちの瞳がきらきらして、大人たちも伊座利の方たちも、みんなよい顔を輝かせていました」と言う大長さんの言葉は、そのまま私の、そしてきっとみんなの鮮やかな印象だったと思います。
 人が人らしくあるということは、本当に気持がよい。一緒にいる人がいい顔をしていると、それだけで嬉しくなり、元気になる。子どもらのいい顔を見守る幸せも一杯いただき感謝。しかも、周りのみんながいい顔だと、そのことに気づかないほど安心して寛(くつろ)いだ自分がいた。
 こんな、当然のことだが大事なことに改めて気づき、心の底から感じさせてもらえたのが、今回の企画の極め付けに素晴らしいところであったのだ、と今の私は思っている。
 また、2日間とはいえ、TV・ビデオ・ゲームも何もなく、それでも愉快な時間は全く足りないくらいだった、と帰ってから気づいた。
 伊座利には、人間の五感をくすぐる自然、何かに挑戦することも、ただのんびりすることも許される安心感、そして、心かよう仲間たちがいた。
 この思い、感激と感謝を私の<伊座利の灯(漁火)>として胸に点して生きていきたい。
 子育てや子どもと関わる人たちが、いまより生き生きと楽しく<いい顔で>子どもと向き合うことができるように心から願います。私も子育て中のお父さん・お母さんに、しっかりとエールがおくれる絵本講座をしていきたい。その中で、たくさんの絵本が「応援し助けてくれますよ」、ということをぜひとも伝えていきたいと思います。

最後になりましたが、梅田俊作・佳子両先生、伊座利の方々、そして準備など尽力くださった皆様、本当にありがとうございました。


(熊懐賀代・くまだき・かよ/芦屋4期生)


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