「絵本フォーラム」22号・2002.05.10
第3回
コミュニケーション(対人関係)は育っても、
言葉がしゃべれない子どもたち

−単純性言葉遅れは知能を腐られる−
2歳 Aくん(平成8年11月生まれ)
 1歳までおとなしく、手がかかりませんでした。歩行開始1歳1カ月。2歳上の兄がいて、母親は家事と兄の世話で忙しかったといいます。1歳6カ月マンマ、パパ、ワンワン、アンパンマンの4語が喋れ、父母の指示が理解でき、指さしができました。2歳になっても言葉がまったく増えず、1人遊びが多いので小児科医院に相談して紹介されました。
 運動・社会性発達は年齢相応、言語は1歳6カ月、言語理解は1歳8カ月でした。非言語性コミュニケーションには異常がないと判断し、生活リズムを調えること、体を使って遊んであげること、テレビ・ビデオ視聴をやめることを指導しました。
 3カ月後、イタイ、オチタ、バイバイ、アイスなど数語増えましたが母親は不安そうでした。2歳8カ月「パパ好き」など単語を2つ並べて言ったり、言葉数が30語に増え、簡単な手伝いが出来ました。3歳5カ月から幼稚園へ通園しました。4歳時幼稚さが残りますが、幼稚園の先生とは会話ができました。しかし、友達同士の遊びが苦手で、言葉で言い返せません。友達を押したり、たたいたりします。家庭で困ることはありません。
 5歳7カ月現在、友達と楽しく遊べるようになりました。話し言葉も年齢相応に伸びました。

5歳7カ月 Bくん(平成5年7月生まれ)
 乳幼児期の精神運動発達は正常でした。平成11年1月(就学1年前)友達と遊べないので園医に相談したところ、言葉数が少なく、発音不明瞭を指摘され、紹介されました。テレビとビデオ視聴が遊びの中心でした。家庭では何も問題なく、基本的習慣も、父母の要求や指示も理解できました。友達にいじめられることを心配して、父親が集団生活へ入れませんでした。言語は2歳半相当、しかし、発音不明瞭で聞き取りにくいことがしばしばありました。言語理解4歳、対人関係4歳と、ほぼ正常に育っていました。リハビリテーションにて言語治療週1回、普通幼稚園へ通園を開始しました。幼稚園生活にはすぐ慣れて、友達が関わってくれるとにこにこうれしそうでした。しかし、言葉ではかかわれません。6歳2カ月発音がはっきりし、会話ができるようになりました。平成12年4月から普通小学校へ通学。思い出したことや気にかかることは一方的に一気に喋りますが、まだ意思の疎通はうまくいきません。38人クラスの中で先生の指示には従えないことが多く、特に友達同士の会話は難しいです。読み書きは7歳相当です。

3歳1カ月 Cくん(昭和46年4月生まれ)
 1歳過ぎても言葉は出ませんが、オツムテンテン、イナイイナイバー、バイバイなど身振りがよくできていました。呼びかけに笑顔で応答し、指さしが可能でした。しかし、意味のない独語が多く、言葉になりませんでした。
 3歳時多動と有意語がないので川崎医大小児科を受診しました。聴力障害、知的障害や対人関係障害は否定的だったので微細脳機能不全として経過観察しました。テレビのコマーシャルが大好きでした。3歳半で保育園へ行きましたが、友達と遊べず、多動と乱暴がエスカレートしました。就学1年前には保育園に適応できず、ほとんど休園しました。普通小学校では友達と遊べず、イライラして大食漢になりました。5学年の時やさしい先生との出会いがあり、言葉が出ました。6学年では落ち着いてきて、簡単な会話ができました。気に入らな いと自分の手を噛みました。
 13歳、160cm、72kg、養護学校中等部へ行き、16歳でひまわりの園へ入所し、現在に至ります。知能は4歳レベルです。月に1〜2回自宅へ帰り、今も白黒テレビを視聴するのが楽しみだそうです。



 1歳台で指さしや仕種(人まね)でかかわれ、保育者(お母さん)の言葉が理解できても、なかなか喋れない子どもがいます。3人とも言葉が喋れなかったり、話し言葉が増えませんでした。昔は、男の児は遊びに熱中して言葉が遅れるとか、3歳で喋れたら普通に育つよといわれ、単純性言葉遅れと呼ばれてきました。今は違います。テレビ・ビデオ・電子おもちゃ・コンピューターゲームなど1人で楽しく遊べる、あるいははまってしまう恐ろしい電子機器が満ち溢れています。発達の臨界期(最適期)に話し言葉が育たないと、友達とうまく遊べなかったり、多動になったり、知能が伸びなかったりします。楽しい絵本や簡素なおもちゃとたくさんの生き物(お母さんも)と私(子ども自身)がいるだけで良いのです。金子みすずさんは童謡集『わたしと小鳥とすずと』の中で子どもの心の世界をうたっています。

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