グランマからのおくりもの

−第2回−
子どもたちとの出会いは真剣勝負


 12月のある日、地域の小学校に招かれました。町の名人を招いて、子どもたちに色々な世界の広がりを体験させたいという活動、その一つに、何故か私もお仲間に入れて頂いたことになります。最近の教育現場は多彩な活動を展開していますが、子どもたちに言葉の持つ響きや楽しさを、しっかりと聞き取ることが出来るようにしたいという願い、読み聞かせ活動ほかが、盛んに行われるようになったのもその一つでしょう。
 小学校の低学年の児童たちを対象に、お話をする機会は本当に久しぶりのことです。このところ、私が招かれて行く先は、保護者、先生方、いわゆるおとな対象が多いのです。
 さて、何にしようかと迷いましたが、よし、久しぶりに、昔昔に、随分と語った「紙芝居」を一幕、「お話」を一つ語ることにしました。授業の中休み時間30分ぐらいということです。大事にしまってあった紙芝居の道具を取り出し磨きをかけ、拍子木を打って音を確め、懐かしい台本の数々を読み直し、新たな心の準備をしました。子どもたちが私のパフォーマンスを楽しんでくれることを願いながら。
 さて、当日、一年生から三年生まで80余名が、期待に満ちた表情で目を輝かせながら静かに待っていてくれました。「とかく落ち着きがない今の子どもたち」と言われている世間の評価に対し、聞く姿勢が育っている子どもたちに出会えた事だけでも私は嬉しくて、子どもたちと一緒に私も大いに楽しんだことになります。お別れに子どもたちがくれた百合の花束は、私の仕事部屋に何時までも薫りを残し、最高の2002年の締めくくりとなりました。
 数日後のことです。横浜の名所でもある山手町の外人墓地付近を友人と散策していた折、すれちがった男の子と女の子の小学生に「あっ、紙芝居をしてくれた先生だ。面白かった。また来てよ」と声をかけられて、思わず周囲をきょときょと見回す私。たった30分間の出会いだったのに子どもたちは覚えていてくれたのです。思ったこと、考えたことを「言葉」として整え、相手に伝えることができる、このことは多くの喜びを相互にもたらしてくれます。おとなたちは、心して子どもたちに「言葉」が持っている不思議に目を向け、その役目を、夢忘れないようにしなければと、あらためて考えさせられた出来事となりました。
 本紙の読者の皆さんも、日常の言葉かけに、穏やかさや暖かさがあるように心がけてください。「聞き耳」を育てるためには、子どもたちの五感に響く心地よいものが必要です。
 本紙が読者の手元に届く頃は、そろそろ、春も近いのではないでしょうか。自然の恵みを感謝する意味で、また、子どもたちが一学年一学年と成長していく心と身体、その育つことの喜びや新しい発見に繋がる物語を言葉で語り、また、本を読んであげてください。自分で本を読むことが出来るようになったら、本と出会う機会を用意してあげてください。
 未来を担う子どもたちです。混沌とした社会環境ですが、子どもたちが生きる明日に夢がなくては育つものも育ちません。子どもたちは、まだしばらくの間は、保護者たちに守られながら夢を育んで行く時間が必要なのです。

「絵本フォーラム」27号・2003.03.10

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