ほるぷフォーラム出版『絵本で子育て』に掲載されています。

子どもの悲鳴が聴こえますか

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失われた〈大切なもの〉

 いま、私たちが〈当たり前〉だと感じ、何気なく享受している生活のなかに、大きいけれど目に見えない歪みが生じてしまっているということをお話ししてきました。そして、その歪みのなかで、子どもたちが声にならない悲鳴を上げているということを。
 いま、青少年による犯罪が増加し、その凶悪化、低年齢化が問題になっています。また、不登校、いじめ、学級崩壊、自殺など、悲しい事件が、まるで堰を切ったように噴出し始めています。
 簡単にキレてしまう子どもたち、人の痛みがわからない子どもたち、他人との関係をうまく構築できない子どもたち、自分の人生をしっかりと見つめることのできない子どもたち……。そんな子どもたちが増えてきつつあるのです。
 その〈育ち〉の過程において歪みが生じ、だれもその歪みに気づかないまま、育っていってしまう……。それが現代の子どもたちの最大の悲劇なのです。
 そして、その原因として、学校教育や地域のあり方、社会体制の問題などがよく挙げられますが、はたしてそれだけなのでしょうか。やはり、その最も根本にあるのは、しつけや幼児教育ということばを超えた、家庭内における親子関係の問題なのです。
 子どもが悲鳴を上げているとき、それを最も身近にいる私たち親が気づかないで、だれが気づいてくれるのでしょう。私たち親が、その歪みから救ってあげられなくて、だれが救ってくれるというのでしょう。
 しかし、子どもにとって本当に大切なものを見失い、いつしか子どもの心まで見失ってしまっている親が増えているのです。
 現代の家庭から失われた〈大切なもの〉……。それは、親と子の心の交流、心のつながりなのです。
 それを取り戻すのは何も難しいことではありません。「あなたのことが大好きなのよ」「いつでもあなたのことを見守ってあげているのよ」と、たくさんことばがけをしてあげること。いっしょにいろいろな感動を共有すること。いっぱい抱きしめてあげ、スキンシップをしてあげること……。
 親の愛情を素直に伝えてあげることによって、子どもは親に心を開いてくれます。そして、親は子どもの心をしっかりと見つめることができるようになるのです。そうした信頼関係こそが、子どもが自分の人生をしっかりと歩んでいくための、最も基礎の土台となるのです。
 大きくなって、いくらたくさんの知識、経験を身につけても、その土台がなくては、どこかに歪みが生じてしまい、さまざまな問題を引き起こしてしまうのです。
 私たちはいま、改めて親と子の関係を見直し、〈愛情〉という強いくさびでつなぎ止められた親子のきずなを取り戻さなくてはならないのではないでしょうか。

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