こども歳時記

〜絵本フォーラム99号(2015年03.10)より〜

君の行く道

 年度末の3月になると卒業式ソングが巷で流れ何だか物寂しくなる反面、新年度に向けて頑張ろうという気持ちにもなります。毎年、年末年始とは違った改まった心持ちになり、来年度はどれくらい成長できるかな、成長できなくとも衰えないようにと緩んだねじを締め直します。

 今年は特に、戦後70年、阪神淡路大震災の発生から20年の節目の年となります。また、東日本大震災から丸4年が経ち、5年目を迎えるため防災に対する啓発活動が各方面で活発に行われているそうです。加えて、昨年は土砂災害や御嶽山の噴火などの自然災害も多く大自然の猛威には、人は為す術もなく立ち尽くしてしまいます。被災されたみなさまやご家族にとって平穏な日常が早く訪れることを願ってやみません。

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 当たり前の暮らしの中にも、心がくじけ、生きる希望をも見失いそうになってしまうできごとがあると思います。どうすればいいのか分からず迷宮に迷い込みさまよい、挙げ句の果てにピタリと立ち止まってしまいどうすることもできなくなってしまうこともあると思います。自分で解決しようともどうにもならず、時が解決するのか自分自身がとにかく遮二無二頑張らなければいけないのか、途方に暮れてしまいます。さらに今、日本は政治も経済も不安定だと言われています。そんな状況であるから尚のこと漠然とした不安を感じている大人も多いのではないでしょうか。

 大人になると正しい道≠指し示してくれる誰かが少なくなってくると感じます。誰かに依存していたいのに、もうそんな年齢ではないことに寂しさも感じます。そんな時、私は決まって絵本や詩集を読みます。研ぎ澄まされた短い言葉に凝縮された想いを感じ、時には笑い、時には涙し、晴れやかな気持ちになります。大好きな本でも今はこんな気分じゃないと思ったり、あまり好きではなかったはずの本に素敵な所を発見したりするうちに自分を見つめ直し、あるがままの自分でいようと思えるから不思議です。この絵本も数年前に表題にひかれ自分のために選んだ一冊です。本文を読む前から『きみの行く道』(ドクター・スース/さく・え、いとうひろみ/やく、河出書房新書)という言葉だけで元気になり励まされたことを覚えています。「あなたの思う道をまっすぐに歩みなさい」と言ってくれているようで、とても嬉しくなりました。

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 さて、我が家には三人の子どもがいるのですが、今年は次女の大学受験と、末の息子の高校受験と二人の受験生がいました。ダブル受験も二度目となると、とにかく努力してきたことがたいせつだと心底思えます。望む道であろうとなかろうと与えられた道をひたむきに歩んで行って欲しいと思います。4月からは我が子のみならず、学年が一つ上がり新しい環境になる人が多いのではないでしょうか。新しい世界へ胸をはって自分なりの大きな一歩を踏み出していって欲しいと思います。かく言う私もいろいろな意味で節目の年。心晴れやかに自分の歩む道を見つめ小さくても一歩ずつ確実に進んでいきたいと思います。
(ますたに・ゆうこ)


舛谷 裕子(絵本講師)絵本講師・舛谷 裕子

きみの行く道

『きみの行く道』
(河出書房新書)

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