こども歳時記

〜絵本フォーラム97号(2014年11.10)より〜

支えとなる大切な存在

 秋のある日、音楽会に出かけました。開演前にアナウンスがあります。「携帯電話の電源を切ってください」「補聴器を装着されている方はきちんと装着されているか確認してください」。補聴器についてのアナウンスは、ここ数年で加わったものです。それだけ、補聴器という機器が身近なものになったのだと少し嬉しくなりました。
 私は「きこえ」に障がいをもつ幼児の教育に携わっています。家族が子どもの難聴に気づくきっかけは、赤ちゃんが大きな音にびっくりしない、呼んでも振り向かない、1歳を過ぎてことばが出ない、幼稚園でことばが少ない、発音が気になるなどさまざまです。現在では産科で行う新生児聴覚スクリーニング検査を受けると、難聴の疑いがあれば耳鼻科での精密検査を勧められます。気づくきっかけや子どもの年齢はさまざまでも、精密検査で難聴があれば、診断を受け、多くの場合補聴器を装用します。
 そして、聴覚特別支援学校(ろう学校)や児童発達支援センター(以前は難聴幼児通園施設)に通うことが望ましいのです。私は聴覚特別支援学校に勤めており、子どもの年齢や発達に応じて、その家族、主に母親に子育てやコミュニケーションについてアドバイスをしています。
 「子育て」について、難聴児の保護者への特別なアドバイスはありません。普通の親子関係、家族関係のなかで育ててほしいと伝えます。ただ、「きこえ」の障がいのことが心配なので「きこえ」について説明したり、聴覚に障がいをもつ子どもさんがどのように成長するかお話ししたり、先輩のお母さんと話す機会などを設けたりはしています。
 コミュニケーションは、子どもの表情や視線、声にある意味を読み取り、お互いに視線を合わせてやりとりすること、身ぶりや手話、音声での言葉でどのように子どもと通じ合うかをそれぞれの親子がつかめるように、助言しています。
 加えて、聴覚特別支援学校は難聴児同士、その母親、家族同士のつながりの場です。先日ある母親が『音が見える絵本 サルくんとブタさん』(さく・え/たどころみなみ、汐文社)を紹介してくれました。耳がきこえないブタさんがサルくんに「音の世界」を教えてもらうのですが、そのなかでサルくんはブタさんを支える大切な存在になっていきます。
 難聴児を育て、支えるのはまず家族です。でも、子どもを支えるのは家族だけではありません。補聴器や聴覚障がい者のことを知っている人、手話を学んでいる人も聴覚に障がいをもつ子どもを支えてくれる存在なのです。『サルくんとブタさん』のほかにも、聴覚障がいや障がいをテーマにした絵本が出版されています。絵本をきっかけに障がいをもつ人を支えてくれる人が増えてくれることを願っています。


(ごとう・じゅんこ)


後藤 純子(絵本講師)絵本講師・後藤 純子

サルくんとブタさん
『サルくんとブタさん』
(さく・え/たどころみなみ、汐文社)

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