えほん育児日記えほん育児日記
〜絵本フォーラム第93号(2014年03.10)より〜

一日一日一生懸命に感謝をこめて大いに学ぼう

 『絵本とジャーナリズム』

NPO法人「絵本で子育て」センター

熊懐 賀代(絵本講師) 

 まるでたった今、講演会場を後にしてきたような、そんな心の高まりを感じながら本を閉じた。そして二度、三度、読み返すほどに私の体のまん中にいくつかの思いがしっかりと根を下ろしていく……。
 むの氏は、「私はこれまでジャーナリズムの一本道を足掛け七六年間とことこ歩いてきた」が、その間に「年少世代の生命・生活・成長を守るために役立つ仕事をしなかった」とふりかえっておられる。しかし、既に著書『詞集たいまつT』(評論社)や『日本の教師にうったえる』(明治図書)などで、子どもを育むということ、子どもやその保護者と共に育とうとする者として心したいことなどにふれておられる。これらの著書や講演を通じて、むの氏のたくさんのことばに勇気づけられてきた私であるが、今回、尊い体験をうかがい、お人柄にふれて、あらためて一つ一つのことばに心揺さぶられる思いである。
 絵本講師として、子育てを取りまく社会の現状に目を向けることを学び、メディアの伝えるもの、伝えないものにも関心をもつようになった今、私は、子育てや子どもに関わる仕事を揉みくちゃにされまいと、必死で「社会」を感じ、その正体を見ようとしている。本当に大切なことは何か、子ども達の幸せのために守らなくてはならないものは何か。そのために私にできることは?
 本書の中で、むの氏は七〇〇万年前の人類誕生の歴史までさかのぼり、絵本とは「人類文化の本流だ」と明かしてくださった。大切なものには、必ず受け継がれてきた意味があり、それを深く正しく理解してこそ、その価値を生かし、また後世に伝えていくことができる。ジャーナリストとして、どんな物事についても自分の目でその本質と向かい合おうとされるむの氏の姿から学んだことである。
 また、生の訴えとして伝えられる平和への思い。むの氏の九八年……その長い道のりの一日一日を、ひたすらに仕事に向かい、家族を愛して一生懸命に歩いてこられた重みが、私のお腹にずしんと響く。
 この世の中の人はみな「一人称の私」であるということ。自分の目で見、疑ってみること。責任をもって考え、判断し、行動すること。過ちを認め、反省することを恥じず、誇りをもつこと。すべての人は「私」と「私」、対等な人間対人間として互いに尊重すること。そんな人間らしい人が増えるほど、人間らしい喜びや見通しを持った社会が作れると、むの氏は訴える。
 その通り、私もそのような生き方をこそ、子ども達に示したいと願いながら、それは本当に難しいと、日々ちっぽけな自分を感じている。だから、むの氏がこうして力をこめて希望を語り、時に厳しく励ましてくださることに心から感謝したい。
 今回の講演、そして本書が出版されたことは、本当に心強く喜びに心が湧く。良質の絵本を子どもや社会に届ける役目を担う私たちに「絵本にもジャーナリズムの精神が必要」との提言もいただいた。「学習テキストとして」と言っていただいたからには、感謝をこめて大いに学ぼう!この先も一日一日一生懸命に学び続けて生きていこう!                            (くまだき・かよ)

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