■破滅の道を歩みだした安倍政権
安倍晋三内閣の「落日」が迫っているのではないか。本人は暢気にはしゃいで東 京・甲信地方豪雪の折には麻生副総理と天麩羅を食していたようだが、躓きの石の存在には気づかないようだ。同盟国(?)米国・オバマ政権の思惑を忖度し、 実行に移せる有力政治家が不在なのが幸いしているのだろう。
辺野古移転、消費税増税、靖国参拝、憲法改正、特定秘密保護法、原発再稼動、TPP、NHK経営委員の任命など重要政策は「維新」や「みんな」に秋波を送り強引に推し進めている。「狂気の沙汰」という形容句が赤面してしまうほどだ。
これらの政策は全てがこの国を破滅に向かわせるものである。それにしても安倍の「解釈改憲」(集団的自衛権)についての雑駁な言及は、酒場のおじさんの 放談以下である。改憲論者(小林節慶応大教授)でさえ呆れ返っている。小林は、「首相の権限を超えており、法の支配、立憲主義を無視する暴挙」とし、「こ んな政権を存続させてしまっては、主権者国民の見識が問われる」と厳しく批判している。誰かが立憲主義の「教科書」を安倍に贈呈したようだが、理解するに は読解力と言う能力が必要である。絶望……。
■「靖国参拝問題」は超克すべき多くの課題が
靖国参拝問題で安倍晋三はいつも「国のために尊い命を捧げた英霊に手を合わせ、ご冥福をお祈りし、尊崇の念を表すのは当然のことであると思います」、と言っているが歴史認識が極めて浅薄である。
靖国神社は1869(明治2)年に明治天皇の命により、戊辰戦争の戦死者を祀るために創建されものである(前身は東京招魂社)。戦争に国民を駆り出すために「死んで靖国で会おう」などと思想統制をするための施設でもあった。
戦前、天皇制国家主義の精神的支柱としての役割と同時に、侵略戦争を「聖戦」と美化・正当化するための施設として護持・発展してきた歴史をもっている。
戦死者は国の誤った政策のために尊い命を奪われた被害者である。また、被侵略国から見れば被害者は「加害者」でもあった。英霊の呼称にも疑義も呈されている。
国家は所詮、仮構である。靖国問題は、当時の為政者の戦争責任(犯罪)など、思想的、政治的にまだ多くの克服すべき課題を残している。
■類は友を呼ぶ
国会中継を終日視た。NHKの新会長・籾井勝人が参考人招致され、就任会見での発言の背景・真意を追及されていた。結局は発言全てを取り消すなどという前 代未聞(?)の珍風景を延々と放送していた。野党の追及は放送法の核心から逸れ、馴れ合いを証明しているかのごとく、甘い。
NHKの職員が哀れになってきた。自分の組織の最高責任者が何を聞かれてもしどろもどろで、後ろの席のNHK職員が想定問答の「答案」の紙を手渡す姿 (これを「二人羽織」という)を全国中継するのはよほどの勇気を要するのではないか。しかし、受信料を原資とする給与は、民間(公務員とも)比較したら仰 天するような高額であるから「これも業務」と割り切っているか。それにしてもカメラ操作が巧妙で、二度目くらいから委員長に指名された籾井を画面からカッ トし質問者に焦点を当てる。恥部を隠す能力には恐れ入った。
先の会長就任会見は詰まるところ、「氏名」と「醜態」だけを世間に発表したのだろう。この人は安倍晋三の「お友達」である。
もう一人のお友達・百田尚樹の暴言も酷い。東京知事選挙で右翼系候補の応援演説に出かけ、街宣車から他の有力候補に対して「田母神候補以外は人間のク ズ」呼ばわりしたというのだ。「屑=物の切れ端。何の役にも立たないもの」(岩波国語辞典第七版)。さらに「南京大虐殺は無かった」。それらの暴言を批判 されても、ツィッターで悪態をついているらしい。老残・石原某、一人相撲・橋下某も同類である。さらに「現御神・あきつみかみ」の長谷川女史も。
■情報空間に若干の変化が
ここ一週間ほどの新聞を読んでいて、論調に微妙な変化が表れてきたように思う。特に「毎日」「朝日」が安倍政権の経済政策や「集団自衛権」問題に真っ当な批判記事を載せている。少しは期待しよう。
今号のお薦め本は『安倍政権10の大罪』(佐高信/著、毎日新聞社)。辛辣な人物批評には定評がある著者の最新刊である。版元が毎日新聞というのも面白い。帯には「日本を破滅させる政権を許してはならない。」とある。
読者は「知っていたつもりの人」が「知らない人」であったということに驚愕するであろう。佐高は講演で、お連れ合いが「アナタは世間で辛口評論家と言われているが、本当は軽口評論家ね」と冗談を飛ばす、と語っていた。「警世」の書である。
2014年2月21日記(ふじい・ゆういち)