こども歳時記

〜絵本フォーラム89号(2013年07.10)より〜

頑なな心の友として、そっと寄り添い灯りをともしてくれている

 季節は私たちの生活を彩り道案内してくれます。 このごろでは日本の四季も世界的な異常気象に少なからず影響を受けていますね。寒暖の差が激しかった春、それでもどこからともなく流れてくる甘い香りに心和む瞬間を感じつつ、季節が駆け足ですぎていくように感じたのは私だけでしょうか。夏はもうすぐそこまで来ています。

  さて、 この春新生活をスタートした子どもたちはやさしい風に背中を押され、ワクワクドキドキしながら新しい教室に足を踏み入れたことでしょう。
 そこで子どもたちはまわりの様子を観察し、受け入れ、そして自分なりのやり方で頑張ります。楽しい気持ちの一方で、不安が膨らむこともあります。高学年から中学生の頃になると、自立に目覚め始めた複雑な気持ちに向きあいながら頑張り過ぎて、たくさんのことにふと疲れてしまったり……。
  長い人生を考えたら焦ることはないかもしれませんが、伸び盛りの子どもにとっては一分一秒が大切で深刻なのです。それを見守る親の心にぴったりのことばを聞く機会がありました。「種から出た芽はじっと見ていても変わりませんが、適当なお世話をして、ふと見ると成長しているものです。ずっと見ていても、引っ張っても早く大きくはなりませんよ」。本当にその通りですね。そういえば、うちの子どもが小学校の卒業前だったと思います。絵本のリクエストを聞くと、『ぼちぼちいこか』(マイク=セイラー/さく、ロバート=グロスマン/え、いまえ よしとも/やく)を選んでくれました。
 カバくんがのんびりゆったり気持ちをなごませてくれるこの絵本を読みながら、こちらまでホッと一息、楽しいひと時を過ごしたことを思い出します。
 二歳頃の子どものコップにことばが溢れる瞬間がある様に、大きくなってもいろんなコップがあって、それが一杯になると成長が見えたり休憩が必要なサインだったりするのかな。
 親として、そんな子どもの心に黙って寄り添うことが子育てなんだなと感じます。 無理をせず、今の一歩を子どもと共にゆっくり歩くことはとても大切なのですね。 ことばを話せないあかちゃんの頃にも、自立の波に乗る時期も、いつしか大人になって、そして年老いても、たくさんの想いを抱えて生きていく私たち。 この柔らかくて、時には頑なな心の友として、気がつけば絵本はそっと寄り添い灯りをともしてくれているのだと感じています。

 先日家族で訪れた淡路島の海岸は五色の石の浜です。波に打たれて丸くなったり平たくなったり、そのひとつひとつの色や形はみんな違って美しく、おひさまに温められています。波の音を聞きながら子どもと過ごすこの夏を思うのでした。

弓立 瑶子(ゆだて・ようこ)


『ぼちぼちいこか』
(偕成社)

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