絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」83号・2012.07.10

『絵本講師・養成講座』を受講して
—— 縁と絆をつくる絵本の力 ——
ジェリー・マーティン(東京 8期生)

 1980年、アメリカ合衆国カリフォルニア州の小さな町で誕生。両親が営む牧場にて、牛や馬と触れ合いながら育つ。一番好きな動物は、牧場にはいなかったが白熊。カリフォルニアの大学で日本語と日本文化を修め、英語講師としての就職と同時に来日。今年で7年目。小学生の頃から絵本の虜。読むのはもちろん、現在までに4巻の英語絵本を刊行。


 講座を受講しているあいだ、「それは、絵本を作る人たちのための講座?」とよく聞かれました。違うと答えると、「よく分からないなぁ」というような顔をされました。私自身、絵本講師の役割について、講座を受講し始めたばかりの頃はよく理解していませんでした。しかし、絵本と同じように、講座の最後のページになると自分なりの考えをもつことができました。
 そもそも、絵本講師の世界があることを知ったのは、テレビの子育て番組がきっかけでした。その番組を見ながら、インターネットで「絵本講師」と検索してみました。そこで養成講座があることを知り、どうしても参加したいと思いましたが、すでに応募締め切りが過ぎていました。問い合わせてみたところ、どうにか参加させていただけるとのお電話をいただきました。今思えば、そのお電話がなければ、私の世界や考え方を広げることはできませんでした。

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 小学生の頃から、学校の先生が読んでくれた昔話の絵本がきっかけで、絵本が大好きになりました。2010年から自分の絵本を描き始めましたが、この講座を受けることで、絵本が好きな他の人たちに会うことができ、もっと良い絵本を描けるようになるのではないかと考えました。講師の先生方のお話、グループワークでの話し合いとレポート作成を通じて、心の中の火が確実に大きくなり、絵本の本当の魅力を見つけることができました。絵本の魅力は、「奇麗な絵」や「素敵な言葉」だけではありません。絵本は「道具」であり、この変わった道具は、縁と絆作りに役立ちます。
 家族から離れて海外に住んでいる現在、何が起こるかわからない状況のなかで、遠く離れている家族の絆をもっと大事にしたいと思っています。このことは、昨年3月11日、英語を教えていた子どもたちと一緒に、テーブルの下にもぐり込んだときにも強く感じたことです。
 講座受講の1年のあいだに、幼い頃から一緒だった98歳の祖母が亡くなりました。大学時代に楽しい時間を過ごした35歳の友人を事故で失いました。祖母には生前、帰省した際に一度会うことができましたが、友人には、「さよなら」にもまして、「ありがとう」が言えなかったことを今でも悔しく感じます。これまでの人生を豊かにしてくれてきた絆と縁のいくつかは、失われてしまいました。
 しかし、同時に、新しい絆と縁が生まれました。「絵本で子育て」センターの皆さん、東京会場第8期の皆さん、絵本講師の先輩たちにお会いすることができました。今後、この新しい絆と縁を大切にしていきたいと思います。絵本のおかげで、このように素敵な縁と絆ができました。
 
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 時代と社会の変化のなかで、活字離れになっている人たちは、同時に絆作りを忘れています。社会のなか、学校のなか、家庭のなかにはさまざまな変化が起きています。いまこそ、絵本講師の出番です。「絵本は世界を救う」というのは言い過ぎかもしれませんが、「絵本は家族を救う」というのはどうでしょうか。自分の肩に「家族」がかかってしまうのは、大変なことに思われるかもしれませんが、それを手伝ってくれる道具が絵本です。絵本を使いながら自分の子ども、孫、児童・生徒に縁と絆作りを紹介することができます。どのような事柄に対しても、興味がない人や共感してもらえない人がいるものですが、絵本の素晴らしさ、絵の力、言葉の力など、この講座で得たものを沢山の人たちに伝えたいと思います。何より、このように絵本講師の道を進む「勇気」を講座からもらうことができました。                       (ジェリー・マーティン)


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