私の絵本体験記

「絵本フォーラム」82号(2012年05.10)より
やはり、きれいな言葉にはきれいな言葉が……
牧 由香さん(兵庫県姫路市)


 絵本講座を開く前日に、きれいな言葉、正しい日本語というテーマで『くだもの』(平山和子/さく、福音館書店)の絵本を紹介したくて、リビングで読む練習をしていた時のことです。
 高校生になる息子が、たまたまリビングに入ってきました。そして後ろのソファに座り、携帯電話を操作し始めました。おしゃべり好きだった息子も、さすがに高校生にもなると必要以外、自分からあまり話してこないようになりました。息子は、携帯電話を操作していたので、特に絵本を聴こうとしていた感じではなかったのですが、私が「すいか、さあどうぞ」と読み始めると、ほとんど無意識で、後ろから「ありがとう」という息子の低い声が聞こえてくるのです。「もも さあどうぞ」「ありがとう」「ぶどう さあどうぞ」「ありがとう」と息子。結局、最後のばななまできちんと「ありがとう」と返してくれました。
 思春期に入ると、なかなか「ありがとう」という言葉も素直に口にしません。息子本人は「ありがとう」と自分で言っていることに、気付いていない様子でしたが、久しぶりに聞いた息子の「ありがとう」という言葉が、なんだか嬉しくて微笑んでしまいました。
 やはり、絵本の力はすごいなあ。きれいな言葉にはきれいな言葉が返ってくるということをいつも講座でお話させて頂いているのですが、小さい子どもだけに限らず、何歳になっても人とはそういうものなんだと、身近な体験として実感することができました。
 息子達も大きくなり、男の子ということもあり流行りの言葉を使うのも仕方がないかなあとあきらめかけていたのですが子ども達の小さかった頃を思い出し、私自身もう少しきれいな言葉、正しい日本語を意識して使い続けようと再度思うことができました。(まき・ゆか)

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