私の絵本体験記

「絵本フォーラム」81号(2012年03.10)より
絵本と過ごした大切な時間
服部 貴子さん(大阪府吹田市)


 「しょくん!われわれ11匹、図書館へ行こうではないか」
「さんせー!」息子がまだ2歳半くらいのことです。息子と図書館へ行く時の掛け声は決まってこれでした。もちろん、家族は11人もいません。家族三人、出先が買い物に変われば「スーパーへ行こうではないか」に変わるだけ。これは当時一番大好きだった馬場のぼるさんの「11匹のねこ」シリーズの中の1フレーズです。絵本はこれ、昼間の自分は「とらねこ大将」。毎日毎日同じ絵本を読んで読んでとせがむ息子に「飽きない?」と思いながら読んであげる日々がかなり続いたことを覚えています。初めは自転車で往復していた図書館もお散歩がてら歩いて行こうと決めた日からは図書館への道のりの長いこと長いこと。途中、空き地があれば立ち寄りくまなく探索。小さなとらねこ大将は小さな変化を敏感に察知し、私に報告をしてくれます。私もまた普段目にしない物に目を向け新たな発見をしたり、子どもの目線のすごさをとても実感したりしました。「夕ご飯、コロッケだよ!」「あほうどりが来るかもね」絵本のことを知らない人からすれば「この子は何を言ってるの?」という会話だったと思います。絵本を通じて親子にしか解らない会話、子どもが絵本の世界に入り込んでいる時間、空間、その世界を共有することで子どもと心が通じ合うことが出来るのではないかと思います。成長と共に、選ぶ絵本も変化し「ごっこ遊び」をすることもなくなりましたが、今でも私たちの心のなかにはこの「小さなとらねこ大将」が声を掛けてくれているような気がします。(はっとり・たかこ)

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