えほん育児日記
〜絵本フォーラム第81号(2012年03.10)より〜

次々飛び出す“はじめて”

 生まれた時の何倍にも体重が増え、背も1.5倍に伸び、身体的に大きな発育を見せた最初の半年間を経て、生後6ヶ月過ぎから10ヶ月の現在に至っては、心や脳の著しい成長が感じられ、たくさんの「初めて」が次々に増えている。誰が教えた訳でもないのに、ある日ふいに寝返りをし、両手を前につき、やがてお尻を上げてハイハイが出来るようになり、そのスピードが早くなったかと思うと、嬉しそうにつかまり立ちを始め、家中をつたい歩きで冒険するようになった。運動量が増えると、彼女なりのペースで徐々に離乳食も食べられるようになり、今では母乳よりも3度の食事をメインに、お腹が空くと本当に大きな声を出してご飯を要求するようになった。まだ前歯が上下8本しかないのに、一生懸命モグモグご飯を食べる姿は何度見ても愛おしく、とはいえまだ小さいその身体は、生きようとする巨大なエネルギーに満ち溢れている。

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 最近何より感動を覚えることは、娘が少しずつ「言葉」を理解し始めていることだ。6ヶ月に入ってすぐの頃、ある予防接種を受けようと診察室に入り、医師に聴診器を当てられた途端、注射だと察した様子で「ママ〜!ママ〜!!」と大声で言って、泣いた。
 それまでの「ママ」は空腹時のサインのようで、私のことを指すというよりは、おっぱいのことを指す言葉のように聞こえた。でもその時は、初めて「ママ」の存在を指す言葉と分かって言っていると実感できて本当に嬉しかった。その後、8ヶ月頃には「いない、いない」と言うと「ばっ!」と言うようになった。また、いつからか一人で色々な絵本のページをめくっては「ばっ!」と言って遊ぶようになった。
 「じょうず、じょうず」と言うと小さな掌をパチパチ合わせて拍手をしたり、「美味しい?」と聞くと頬に手を当てて「ほっぺが落ちそう」の仕草をしたり、「いただきます」や「ごちそうさま」の合掌、「ありがとう」のおじぎ、「いやいや」と首を降るなど、言葉かけしながら仕草を見せると、その仕草を真似るようになった。おしゃべりもセットで出来るようになる日が本当に待ち遠しい。

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 一方で、見聞きしたことを次々吸収していく娘の様子を見ていると、私も夫も、娘の前で使う言葉にとても注意を払うようになった。またこれまで以上に、日常の自分達の所作や、外での立ち振る舞いが、娘や人様の子どもの手本となるようなものか意識して行動するように変わった。
 大の大人が今更そんな事に気付いたのかと笑われてしまいそうだが、例えば、夫婦間で少しおざなりになっていた挨拶やお礼を正しく声に出してするようになったり、気を付けていてもつい出てしまったラ抜き言葉を注意し合ったり、車の往来が無いとつい渡っていた横断歩道のない近道を通らなくなるなど、娘のおかげで私達はまた少し親としての成長を遂げることが出来た。

      
 私自身の更なる変化と言えば、娘と一緒に過ごす絵本の時間が益々楽しいものになってきたことだ。先入観なく様々なジャンルの絵本を読むうちに、その時々の娘のお気に入り絵本がわかるようにもなってきた。直近ではリズミカルな言葉が繰り返し出てくる絵本がとても面白いようで、そういった絵本を読むと、びっくりするくらいの集中力で絵本の世界に入り込むようになった。特にお気に入りなのは、『ぴょーん』(まつおか たつひで/作・絵 ポプラ社)で、特に≪ばったが・・・ぴょーん≫のページが大好きで、飛び上がろうとするバッタの絵をジッと目で追い、ページをめくって飛び上がった途端、パッと本当に楽しそうな表情をする。確かにバッタが羽も足も目いっぱい広げて飛ぶ姿はまるで花火のようで、私もとても面白いと思うのだが、昆虫が大の苦手な母としては、いつか娘が本物のバッタを捕まえてきて「ぴょーん」として見せるようなことはないか、そればかりが今からとても気がかりである。(はら・ちえ)

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