惜別


   中川正文先生、ありがとうございました


                   森 ゆり子(NPO法人「絵本で子育て」センター理事長)

●2011年10月13日(木)
 午後2時25分頃に事務局から、明日病院にうかがう時間について奥さまにお電話をいれさせていただきました。前日お電話をおかけしましたおり、金曜日(14日)の方がよいようにお話されておられたからです。受話器の向こうで「つい先ほど亡くなったの」と奥さまがおっしゃいました。
何度も大病を克服してこられた先生です。先生、わたしは必ず先生が回復しお元気になられると信じていたのですよ。「もっともっと本が読みたい。時間が足りない」と言われていたではありませんか……。

●2011年10月10日(月)
 午前中に母が入院している奈良の病院へ面会に行き、そのまま京都にまわって先生をおたずねしました。
 奥さまが、「忙しいのに、森さんが今日も来てくれたわよ」とおっしゃると、先生は「では、どうぞお帰りください」と言われるのです。「いいえ、帰りません。もう少し居させてください」、即座にお願いしました。
 少しすると先生の教え子と言われる女性の方が面会に来られました。ベッドの近くの椅子をおすすめしましたが、遠慮されて後ろの椅子に座られました。そして、わたしにその椅子を譲ってくださいました。先生はわたしに向かって、「あんたはいいから、彼女がここに」と指示を出されます。
 「また来ますから」と先生と握手して帰途につきました。この日が最後になるとは思いもしないことでした。

●2011年10月9日(日)
 舛谷裕子さん(「絵本講師の会」副会長)と二人で病院に行きました。
 当日は、『きつねやぶのまんけはん』(NPO法人「絵本で子育て」センター)『きつねのおはなはん』(福音館書店)『つきよのばんのさよなら』(福音館書店)の絵本や、『絵本・わたしの旅立ち』(NPO法人「絵本で子育て」センター)の出版記念パーティー、米寿のお祝いのときの写真や、先生の若い頃の写真(雑誌に掲載されたもの)など、数葉を持参しました。先生とたくさんお話がしたかったのです。
 『つきよのばんのさよなら』は、途中で「もういい」と遮られましたが、『きつねのおはなはん』は、最後まで耳をかたむけていただけました。
 読み終えると「その本、おもしろいか」ときかれました。「すごくおもしろいです」、とお返事しますと「ふうーん」と言われて、また目を閉じられました。
 目を閉じていてもきいてくださっていると信じて、「絵本講師・養成講座」の講演のために東京や福岡へ行ったこと、『きつねやぶのまんけはん』の制作のために名古屋の伊藤秀男先生のお宅をおたずねしたことなど、とりとめもなくしゃべり続けました。
「うるさいおばはんやなあ!」とうんざりされていたかもしれません……。

●2011年10月6日(木)
 大長咲子さん(「絵本講師の会」副会長)と一緒に病院をたずねました。今日は、ベッドから出て、2階の面会室でお話することができました。
 前回お会いした時よりお元気そうでした。わたしと大長さんが机の上に手を置いていましたら、迷うことなく若くてきれいな大長さんの手を取り、道順などの説明をされるのです。「僕は家内しか手を握らせない!」と、ついさっきおっしゃっていたのに……。

●2011年9月21日(水)
 7月は先生とお話しする機会が何回かありました。「こんなことをしたら子育てセンターがもっと全国的になるかもしれないね」「こんな失敗をしてしまったんだよ」などお声をかけていただきました。
 8月は、「絵本講師・養成講座」芦屋会場で松居直先生が講義をしてくださいました。その前日(9日)に「松居さんによろしくと伝えてください」と、お電話をいただきました。
また後日、「事務局が近くだったら、おしゃべりに行くのだけどなあ……」と。長い間お会いしておりませんでしたから、9月になったら伺いますとお伝えしました。
 20日に、明日おじゃましたいとお電話をしまして、初めて先生が入院されていることを知りました。慌てて、病院に駆けつけました。先生に「絵本を読みましょう」と申しますと、「死ぬか生きるかわからないときにそれどころじゃあない!」と叱られました。また、『絵本・わたしの旅立ち』の改訂版についてご相談したり、先生のご著書『おやじとむすこ』(文藝春秋刊)の復刊についてもお話したりもいたしました。まだまだお元気だとほっとしたのを覚えています。

● 中川正文先生、ありがとうございました
 わたしが第1期「絵本講師・養成講座」の講師をお願いするために大阪国際児童文学館に中川正文先生をお訪ねしたのはいつ頃だったのでしょうか。
 NPO法人「絵本で子育て」センターとは何者だ? というようなお顔で迎えてくださったように記憶しております。活動内容を詳しく説明しましたところ、「日本で初めての試みだね」、とおっしゃり快く講師をお引き受けいただきました。
 そして、2004年5月22日開講式記念講演(演題:「子どもに何を伝えるか」)をしていただきました。本年度(第8期)も4月23日にご講演いただきました。
 「絵本講師・養成講座」と並行して、子育て情報紙『絵本フォーラム』にも、35号(2004年7月10日号)からご寄稿いただけることになりました。こちらの方は、「絵本・わたしの旅立ち」と題して78号(2011年9月10日号)まで続いています。ある時は病院で執筆してくださいました。
 紙面に掲載されているお写真は35号から変わっていません。「ちょっと、すましていますけれど、よろしく」とのお手紙を添えて送ってくださったものです。
コラムの連載をまとめて『絵本・わたしの旅立ち』を2006年8月15日に出版させていただきました。また、2009年4月11日には、絵本『きつねやぶのまんけはん』を出版させていただきました。

NPO法人「絵本で子育て」センターの顧問として、私たちを叱咤激励しながら、導いてくださいました。

中川正文先生、ありがとうございました。(もり・ゆりこ)

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