こども歳時記

〜絵本フォーラム第71号(2010年07.10)より〜

五感に刻まれてる幼い頃の記憶

シンガーソングライター植村花菜さんが、幼い頃一緒に暮らしていた亡き祖母の思い出を歌った『トイレの神様』が話題です。トイレには綺麗な女神様がいるから、毎日綺麗に掃除をしていたら女神様みたいにべっぴんさんになれるんだよ、というサビの部分が印象的な歌です。

 この歌を聞いて、私も数年前に亡くした祖母を想いました。同居はしていませんでしたが、幼い頃はよく祖母の家に泊まりに行き、共に時間を過ごしたものです。

 真夏の夕方、庭木にホースで水をまきながら、「虹を作ってあげる」といって本当に見せてくれる祖母には、特別な能力があるのだと思っていたこと。(太陽を背にすると光が反射して虹ができると知ったのは随分後になってからです。)

一緒にお散歩をしていた時、転んで出血した私の膝に、「よもぎの葉は傷をきれいに治してくれる薬だよ」と道端から摘んで手でもんで塗ってくれたこと。

お泊まりの時は、添い寝で昔話を語ってくれるも、話の途中で居眠りをしはじめ、大きないびきがうるさくて寝付けなかったことなど。

脳梗塞で倒れ、晩年は長い入院生活で体も小さくなってしまいました。私は最期をみとることができませんでしたが、今でも祖母の声やしぐさはもちろん、家のにおいや、料理の味や、庭の土の感触などを思い出すことができます。

『夏のわすれもの』(福田岩緒 /作・絵 文研出版)では、夏休みに入ったら、草取りを手伝うと約束をしながらも、一度も手伝ったことのない「まさる」が川遊びに出かけている間に、突然おじいちゃんが亡くなります。体調がよくないのに、無理をして暑い中草取りをしていたために。

初七日も終わったある日、「まさる」は、おじいちゃんの麦わら帽子を持って川に行こうとして、ふと、ひまわり畑の前で足をとめます。ひまわりが大好きだったおじいちゃんが、「まさる、ひまわりはなぁ、小さな太陽だ。太陽と同じあかるさをくれる花だよ・・・・・・。まさるもひまわりのようになればいいなぁ・・・・・・。」と、言っていたのを思い出すのです。

まさるは、おじいちゃんとのさまざまな思い出を回想し、自分もひまわりのようになるんだと誓うのです。

今、祖父母と孫が密接にかかわることができているという家庭は少ないかもしれません。めったに会えないからこそ、なにか「特別なこと」をしてあげたいという祖父母の心もあるでしょう。しかし、こうしてみると記憶に残っているのは特別な出来事なわけではないようです。

共に過ごし、同じものを見て感動し共感した体験は、五感で記憶しているものなのかもしれません。そして、そんな幼い頃の思い出は、寂しい時や苦しい時に蘇り、励まし支えてくれるような気がします。

子どもに絵本を読んであげるということも、まさに共に感動できる時間をもつということ。

夏休みに帰省をされる方も多いでしょう。祖父母と孫が心を通わせる時間を意識してみてはいかがでしょうか? 

北 素子(絵本講師)


『夏のわすれもの』
(文研出版)

前へ  ☆ 次へ