私の絵本体験記
「絵本フォーラム」65号(2009年07.10)より
「息子にも出会ってほしい「この一冊!」 」
大郷 陽子さん (東京都練馬区)

 私には 1年生になる息子がおります。絵本をたくさん読んであげたいと思い、夜寝る前の「読み聞かせ」を続けております。

 そんなある日、母が私に「あなたが 1年生だったころ『りゅうのめのなみだ』という本が大好きだったわね。学校から帰ると毎日、部屋の隅で足を前に突き出して、背中を丸めてずっと読んでいたわ。そのうち鼻をすすりはじめて、ポロポロ泣きながら読んでいたのよ」と話してくれました。とても懐かしくなって、本棚から『りゅうのめのなみだ』を取り出し、子どもの時と同じ格好で読んでみました。

 私は小学校 5年生の頃、転校生というだけでいじめにあったことがありました。でも私はなぜか平気でした。そのうちいじめの対象が別の女の子に移りましたが、私はその女の子と仲良くしました。そしてその後も、大人になってからも、転入生や一人でポツンとしている人に対して、どうしてもほっておけず声をかけてしまいました。

 『りゅうのめのなみだ』を読み返して、私の中に衝撃が走りました。「この本だ。一人でいる人をほっておけないのは、この本が影響している!」と。それまで、 5年生の時のいじめが影響しているのだと思い込んでいましたが、違ったのです。この本だったのです!私という人間のある一つの意志に働きかけていたものは。大人になって読み返した本から思いもよらぬプレゼントをもらったような、そんな気持ちになり、「一生の宝ものだなぁ」とかみしめながら本棚に戻しました。

 この経験から、息子にも「この一冊!」と思える本に出会ってほしいと思っています。(だいごう・ようこ)

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