絵本のちから 過本の可能性

第5期「絵本講師・養成講座」を
受講して

「絵本フォーラム」64号・2009.05.10

せっせと種蒔きをする絵本講師で
大久保 広子(東京 5期・長野県長野市)

 これまで読み聞かせやお話し会を開催する中で、いつも抱いていた不安は「私の読書推進活動の方向性はあっているのだろうか?」ということ。お話会に来てくれた親子との楽しいひとときを過ごした後は、「何か物足りない。何かもっと伝えなくてはいけないことがあるのでは?」。今私のしている活動は、その場限りのイベント? 会が終わったらあの親子は「あぁ楽しかった」で終わり? 絵本をもっと親子で楽しんでいただくために、何かもっとできることはと、より一層悩ましく感じていました。大好きな絵本とのひとときが、なぜこんなにも虚しいと思えてしまうのかと思案していたときに出会った「絵本講師・養成講座」。なかなか思い切ることが出来ずにいた自分に喝を入れ「迷っていても仕方がない!もっと学ぶことで、自分なりの答えを見つけることが出来るだろう !!」と踏み出した一歩。今はそのときの自分に、「その考えは間違っていなかったよ。よくその一歩を踏み出したね!」と声をかけてあげたい気持ちでいっぱいです。

〈講座・講師の先生方への感謝…〉

 「薄れてきている自然との関わり」、「人間関係・親子関係の会話や触れ合いの少なさ」、愛情をかけていると勘違いしやすい「早期教育・習い事」。悲しいことに、子どもにとって何が良くて何が悪いかということに気づけない大人が増え、無邪気な罪が多く生まれている現代。現在の子どもを取り巻く環境に潜む〈多くの怖さ〉を講師の先生から学ぶことで「絵本の読みきかせ」に秘められている素晴らしい力とその必要性というものを胸に深く刻むことが出来ました。

 「読み方がうまい、声がいい」などと言ったテクニックは二の次。これまでテクニックの部分を重要視していたから私は虚しさを感じ、その先に進むことが出来なかったのです。「絵本を読み聞かせ、絵本を手渡す大人」が本当に大切にしなくてはいけない本質に迫れました。

〈リポートへの感謝…〉

 課題リポートは毎回まさに「産みの苦しみ」。それも、要点が分からない、まとめられない、理解が出来ないという理由ではなく、ひとつの課題に対して「視点が変われば最終的な結びが変わってしまう」何通りも書けてしまう苦しみ。重要なポイントをどこに絞るのか、何を訴えることが一番自分らしくて説得力を持つのか。明快で分かりやすくするために、いかに言葉を削ぎ落とすか—。 講座の学びを自分の中にしっかり取り込み産み出す作業は苦しみの連続でした。しかし、ようやくまとめて手書きに取りかかると、言葉の一つ一つが自分の身に染み込み私らしい課題が完成していることを実感。人の手から人の手へ。私の心の声や温もりが相手の心に届くことも楽しみに、一文字一文字、命を吹き込むこの作業も至上の喜びでした。今後は産み出したこの宝物を、講演の対象やその時節柄に合わせて育ててゆく作業も楽しみにしています。

〈目に見えないものへの感謝…〉

 いよいよ迎えた修了式の朝、会場に入ると事務局の皆さんがにこやかに出迎えてくださり、まず「ホッ」としました。思えば、緊張と不安の気持ちを抱いて出かけて行った第一回の講座のときから毎回、この朝の「ホッ」が私に励ましを与え支えてくれていました。もっと深く思いを馳せてみれば、講座の講義以外のところからも多くの〈励ましや支え〉という目に見えない贈り物をたっぷりといただきました。

 リポートを提出するにあたり過去の封筒や資料を並べて、毎回いただく資料の封筒の色が違う事に気づき、次は何色かな?と楽しませていただいたこと。そして森理事長の講義は、最初から学んできたことが全て集成されていて、「育ちへの配慮」という上に講座が一本の糸でつながっていたこと。学びを深め、最後に私が絵本講師としてのリポートを組み立て考えるにあたり、森理事長の講演とカラフルな封筒は大きなテーマを与えてくれ、最終リポート『親子の心に輝く虹をかけましょう』というタイトルに結びつきました。グループワークやリポートのコメントからも、素朴な色・元気な色・心に染み入る色…と心に実に様々な色や形の種をいただきました。

 さて、今度は私が講演や読み聞かせを通じて聞き手の心を耕しその種を蒔く番です。私のお話で聞き手の心には何色が生まれるのでしょう? そして、その聞き手が、今度は読み手となり聞き手の心にその色の橋を架けてくれたら、何度も何度も色々な色の橋をかけてくれたら…なんて素敵なことでしょう!一度しっかりと互いの心にかかった虹の橋はいつしかフッと消えてしまう時がきても、その輝きの記憶は決して色褪せることなく心の中に輝き続けるはずです。そう信じて、これからは成功も失敗も肥料とし自分色の種を増やし、せっせと種蒔きをする絵本講師でありたいと考えています。本当に、本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

(おおくぼ・ひろこ)

<<プロフィール>>
学生時代から読み聞かせの活動を始めて、はや 20年…。平日は書店の秘書、休日はお話会のお姉(?)さんとして、またあるときは読書アドバイザーとして地元誌やラジオで、お話の楽しさを届け、本を手にとっていただくきっかけ作り等…の読書推進活動を行っています。(娘との絵本タイムが一番好きな母親でもあります!)


前へ ★ 次へ