こども歳時記

〜絵本フォーラム第62号(2009年01.10)より〜

新年あけましておめでとうございます

 新しい年が始まりました。願わくば家族みんなが笑顔で過ごせる時間をたくさん持てたらいいですね。

 私が親になって今年で 13年になります。気がつけば長男12歳、次男10歳。夜寝る前の定番だった読み聞かせも次男が“つ”のつく年(九つ)を卒業したと同時期にしぜんとなくなり、今ではたまに読む程度になりました。今までお世話になった絵本が思い出を抱えこんで本棚にずらっと並んでいます。絵本の数だけ思い出もあって、家の中でなくてはならない存在として堂々といばっています。

 今でも思い出話の中に絵本は度々登場します。数ある絵本の中でトップ3に入るくらい読まされた思い出深い絵本に『もりたろうさんのじどうしゃ』(おおいしまこと/さく、きただたくし/え、ポプラ社)があります。もりたろうさんというおじいさんが郵便配達の仕事を定年退職した後、自動車免許を取りボロ車を買います。そして自分で手入れした愛車に乗り息子夫婦のところへ出かけていき……というお話です。道徳的なことは感じず、もりたろうさんが生き生きと暮らす日常生活が続くお話です。

 車好きだったからでしょうか。もりたろうさんの人柄でしょうか。手によく馴染んでいました。のどかな空気の中で流れていくこの物語が好きです。何か成長の糧になどと気負わず読める一冊でした。そんな一冊に出会え、子どもたちと楽しかった時間を過ごし、一緒に思い出しては笑顔になれる大切な一冊です。もしかしたらこの絵本は子どもたちよりも、私に必要な絵本だったのかもしれません。



『もりたろうさんのじどうしゃ』
(ポプラ社)
今の時代に生きる私たちにできること

『月のみみずく』
(偕成社)
  

 絵本の中の物語を目や耳から想像して頭の中で動かしていくのが好きです。想像する時、自分が経験したことを頭をフル回転して思い出します。そして、絵本の中で想像したことを生活の中で経験すると、形を成して心に残ります。それは自分の気持ちを人に伝える手段となり、また自分の気持ちを具体的に理解できるようになるのではと思います。その経験は、自分の気持ちが分からなくなる思春期に、冷静に自分を見つめ直す手助けにもなると思うのです。

 中学生になるまでに経験できることがたくさんあるといいですね。松居直先生の講演で聴いた言葉ですが「教えてはダメ」なんだそうです。子どもが自分で気付いて心にストンと落ちるまで……。そばにいてその瞬間に出会えるよう、手助けが出来るよう待っていましょう。『月夜のみみずく』(ヨーレン/詩、工藤直子/訳、ショーエンヘール/絵、偕成社)という絵本があります。とうさんと女の子の静かな冬の森での一夜が描かれています。セリフはとうさんのセリフが少しだけ。女の子の気持ちが文章で、森の様子が絵で表現されています。目で見て感じたことを言葉で受け取れる楽しさが感じとれます。

 子どもは自然から多くのことを感じ、自分で学びとっていくのではないかと思います。時には厳しい顔も見せながら、でも悠々と受け入れてくれる。自然が私たちの身近な場所から遠ざかり、日常生活の中で感じ難くなってしまいました。それでも見つけてみましょう。まずは空を、子どもと一緒に見上げてみませんか?

(くらとみ・のぶよ) 


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