こども歳時記

〜絵本フォーラム第61号(2008年11.10)より〜

幸福な気持ちで眺める日々

 気持ちが外へ、外へと向かっていた夏が、いつの間にか遠ざかり、自らの内面と対峙する秋がやって来ました。我が家の子どもたちも、真っ黒に日焼けした肌が少しずつ落ち着くように、平静を取り戻しつつあります。さあ、今日は何を読もうか?−絵本棚の前で、迷いに迷っているわが子の背中を、幸福な気持ちで眺める日々です。

「こんな日だってあるさ」

 本書の原題を直訳すると「今日は最悪の一日」。そうです。ロナルド・モーガンは、この日、次から次へ失敗を繰り返し、本当についていないのです。鉛筆を落としたのが、そもそもの始まり。机の下で鉛筆を探している姿が、まるでヘビのようだと笑われ、彼は「くねくねちゃん」と呼ばれることに。さらに、包みを間違えて、クラスメートのランチを食べてしまったり、野球のボールを取り落としたり、教室の鉢植えを割ってしまったり…。担任のタイラー先生に散々叱られ、手紙まで渡されてしまったロナルドは、しょんぼりと家路に着きます。

 ここまで読んで、私たちは思うことでしょう。かわいそうに、家に帰れば、先生からの手紙を見たご両親に、またこっぴどく怒られる!ところがその手紙には、心のこもった暖かい言葉が綴られていたのです。やることなすこと、すべてが裏目に出てしまうというような日が、子どもにだってあります。そんな時、私たちはタイラー先生のように、すべてを優しく包み込み、明るく笑い飛ばして忘れてしまうような大らかさを持って、子どもを励ましてあげたいものです。



『こんな日だってあるさ』
(童話館出版)
絶望の果てに見出した「生への希望」

『この悲しみの意味を知ることができるなら
-世田谷事件 喪失と再生の物語』

(春秋社)
  

「この悲しみの意味を知ることができるなら〜世田谷事件 喪失と再生の物語」

 世田谷で起きた一家殺害事件は、今も人々の記憶に、生々しいものとして残っていることでしょう。この事件で著者は、隣家に暮らす最愛の妹一家を一夜にして失います。異常犯罪との遭遇から、終わりのない悲しみと悪夢の中で、歩むべき道を模索し続ける著者。しかし、「絵本との出会い」そして「絵本の読み聞かせ」により、再生の扉を開けていきます。命の尊さを伝え、不条理な別れに遭遇した方々の悲しみを和らげたい、そして絵本の力で豊かな心を育て、犯罪が蔓延することのない社会を目指したいとの思いから、絵本創作と読み聞かせ活動に従事する著者の姿には、苦境に屈しない力強さを感じます。本書には絶望の果てに見出した「生への希望」が、非常に丁寧に綴られており、絵本の持つ力を改めて感じるのでした。

 文字通り、野山駆け回り、遊ぶことに徹していたわが子の夏休みが終わり、日が落ちる時間もだいぶ早くなりました。親子で過ごす時間が長くなりそうです。ほんの少し寂しさを感じる季節、絶えず抱かれたり、話しかけられたりしている安心感や心地よさを与えることができたらと、今日も絵本を手に取るのでした。

(たにぐち・じょい) 


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