リレー

絵本で伝えたいすばらしい生き方
(大分・元小学校司書・上野 三佳 )


 
 08年3月までの3年間、小学校で学校司書の仕事をさせていただきました。図書の時間に絵本を介して見ることができた、子どもたちの瞳の輝きは一生の思い出です。教育界の腐敗を暴く恥ずかしいニュースが報道されたばかりですが、図書の時間に読んだ本の中では、何人もの素敵で尊敬したくなる人生に出会えました。

 2年生に読んだ『羽田の水舟』(野村昇司 /さく、阿部公洋/え、ほるぷ出版)の水屋のため吉。3年生に毎年読んだ『ハルばぁちゃんの手』のハルばぁちゃんの一生。読んであげることは出来ませんでしたが、『モモ』に出てくるベッポじいさんは、私自身の人生の道標であり、ことあるごとに紹介させてもらいました。それから、『あたまにつまった石ころが』(キャロル・O・ハ―スト/文、ジェイムズ・スティブンソン/絵、千葉茂樹/やく、光村教育図書)の作者のお父さんのひたむきな人生。3月に、おすすめの本のコーナーに置いた『からすたろう』(やしまたろう/文・絵、偕成社)『ありがとう、フォルカーせんせい』(パトリシア・ポラッコ/作絵、香咲弥須子/訳、岩崎書店)の、育てることに真摯な教師たち。

 なんとすばらしい人生の数々でしょう。そして、これらを読んだときに出会った子どもたちのあの表情。その日の日記に、図書の時間の本のことを書いていた子たちが幾人もいた、と担任の先生からお聞きし、励みになりました。食い入るように真剣にシーンとなって聴いてくれたあの空間の独特の緊張感と、こちらに伝わってくる子どもたちの心の動き。きっと担任の先生は、クラスが一体となるこのすばらしい瞬間をずっとたくさん経験されるはずです。そのような立場だからこそ、今回の「教職員不正採用事件」は情けないのです。

誠実、責任、信頼、正義、やさしさ、勇気をじんわりと子どもたちに感じてもらえるすばらしい絵本たちを、子どもたちと一緒に読んで聴く時間をもつ前に、私たち大人がもっとたくさん読み、自分たち自身の生き方を省みる必要がありそうです。
絵本フォーラム60号(2008年09.10)より

前へ ★ 次へ