絵本のちから 過本の可能性
「絵本フォーラム」59号・2008.07.10

財団法人 大阪国際児童文学館の願い
子どもの文化の灯を点し続けたい

土居 安子 (大阪国際児童文学館主任専門員)

 大阪府立国際児童文学館はアジアで最大の国際的な子どもの本の専門資料センターであり、大阪府の子どもの読書活動支援センターです。

1.開館の経緯

 当館は、 1984 年5月5日に開館しました。資料の基礎は当時早稲田大学教授の鳥越信先生の12万点の資料です。鳥越先生は、日本によりよい子どもの本の文化が根付くには日本の子どもの本の歴史を学ぶことであるとの考えから、古い日本の子どもの本を集められましたが、国立国会図書館にない資料も多く、公的な施設に委ねることを決意されました。資料を引き続き集め、公開することを条件に、全国に公募され、大阪府が府立国際児童文学館を設立することになりました。(運営は財団法人大阪国際児童文学館に委託)

2.絵本も紙芝居もマンガもある子どもの本の宝庫

 この趣旨に賛同してくださった多くの出版社や研究者、一般の方々から資料の寄贈をいただき、また、府も予算を継続的につけ、現在では70万点を超える資料を所蔵しています。

 貴重な資料の中には、日本で最初の児童文学作品といわれる『こがね丸』(明治 24 年)や、芥川龍之介が「蜘蛛の糸」を書いた大正時代の児童文芸雑誌「赤い鳥」や当時の子どもたちが「血湧き肉躍る」と評した「少年倶楽部」などの雑誌もあります。加えて大阪の街頭紙芝居や大阪で出版された講談本「立川文庫」、児童雑誌「コドモアサヒ」など、大阪の子どもの本の文化を伝える資料も多く所蔵しています。

 1984 年の開館以降は日本で出版された子どもの本はすべて集めるという方針を掲げ、それに賛同くださった出版社から継続的に寄贈をいただいています(全体の約 60 %)。「すべて」の中には、グリコのおまけ絵本、無料配布絵本なども含まれます。また、「少年ジャンプ」や『ベルサイユのばら』などのマンガ単行本・雑誌や「キンダーブック」などの雑誌も収集しています。
 
子どもの本に関する本や雑誌も集めており、研究書、書評誌、同人誌などがあります。専門職員(司書と専門員)がアンテナを張り巡らせて情報を集め、資料を収集しています。
  国際的な資料に関しては、近年アジアに重点を置き、それぞれの国の専門家と連絡をとりながら、その国で一番注目されている絵本を収集し、日本語の抄訳を付してセットにし、学校や図書館等に貸し出しています。

3.子どもたちの豊かな読書活動のために

 こうした貴重な資料は公開し、多くの方々に使っていただいています。児童文学のみならず、絵本やマンガの研究者、社会学、教育学等広い分野の研究者や大学・大学院生が国内外から来館、資料を閲覧し、研究成果を世に問うています。また、開架している年間約 5000 冊の国内新刊本を見るために、図書館司書、学校司書、教員、読書活動ボランティアの方々が来館し、現場での選書に役立てています。国語をはじめとするさまざまな教科の教材研究を行うために、教員が来館します。読書活動グループの人たちも作家や作品についての調査に来ます。

 子どもを指導したり支援したりする人々に加えて、 100 歳近いおじいさんが少年時代に投稿した自分の作品を古い少年雑誌の中に探しに来たり、 40 代の女性が子どものときに読んだ絵本に再会しに来たりというように、自分の子ども時代に再会しに来館する方も多くいらっしゃいます。

 私たちの仕事の一つは、これらの資料をきちんと収集・整理・保存するとともに、資料の情報を提供し、求めていらっしゃる資料に出会い、活用できるようにお手伝いするということがあります。

 また、新しく出版された子どもの本をほぼすべて読み、キーワードやあらすじを付与して、インターネットで「友だち」などのテーマや「犬」のような登場人物で検索できるようにすると同時に、そのデータを使って子どもが自由に本を探せる検索ソフト「ほんナビきっず」を企業との共同研究で開発し、家庭や学校で使えるようにしています。

 遠足等で来館した子どもたちにはボランティアさん達と協働で、「おはなし会」を行うと同時に、それぞれの専門職員の専門性を活かして「宮沢賢治の世界」「日本の児童文学の歴史」「世界の絵本」「物語体験ワークショップ」など他の図書館では体験できないようなメニューも取り揃えています。当館の職員が講師を務めて、学校の先生や図書館司書、学校司書の研修が行われることも多くあります。

 加えて大阪府子ども読書活動推進連絡協議会を事務局として企画・運営し、府域での読書活動のネットワークを構築するためにさまざまな活動を行っています。図書館員とボランティアさんを対象とした講座、いくつかの市や町で読書活動に関わるモデル事業を行い、それを府域全体で役立てていただけるよう冊子にまとめ、報告会を行うなど、大阪府の読書推進活動は全国でもユニークな活動として注目を集めています。

4.大阪府の財政再建プログラムの中で

 現在、当館は存続の危機に立っています。しかしながら、70万点の資料は引き続き集めてこそ初めて人々の役に立つものであり、それを活かして使っていただくための「人」(専門職員)、資料を実際に使って研究し、その成果を読書活動に役立てるための「人」がいて初めて豊かな読書活動が可能になると考えます。経費節減や事業内容の充実に努めることは当然ですが、児童文学館を廃止してしまったら、これまで果たしてきた機能は途絶え、大阪、ひいては日本の子どもの文化の衰退につながります。

 大阪府から当館について廃止の方針は示されましたが、パブリックコメント(市民からの意見募集 6 月 13 日〜7月 14 日)、府議会の審議を通じて、館の存続に向けて皆様方の理解と支援をいただき、これからも大阪の、日本の子どもの文化の灯を点し続けられるよう全力を尽くします。みなさまの声をぜひ、大阪府にお届けください。


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