私の絵本体験記
「絵本フォーラム」58号(2008年05.10)より
「 絵本でつながる共通の体験 」
森ノ内 知子さん (フランス・パリ)

 主人の海外赴任に伴って、渡欧して3年。ヨーロッパが陸続きであることを利用して、色々と出かけるうちに、すっかり旅行が趣味になりました。

 ある時、「次はプラハに行こう!」と、出発前に目を通していたチェコのガイドブックで、思いがけず懐かしいキャラクターに再会しました。
 それは小さいころ読んでいた絵本に出てくる小さなもぐらの男の子。ガイドには『KRTEK(クルテク)』と名前が書いてありました。KRTEKとはチェコ語で〈もぐら〉のことだそうです。
 このクルテクくん、今から約 50年前にチェコで制作されたアニメの主人公で、今でも国民的人気のキャラクターらしく、記念切手のデザインに使われていたり、デパートにはぬいぐるみをはじめ、文房具やDVD、そしてたくさんの絵本が並んでいました。

 自分の読んでいた絵本が、チェコのアニメが原作であることにまず驚いたのですが、さらに驚いたのは、主人も同じように小さいころにこの絵本を読んでいたのがわかったことです。
 私が持っていたのは『もぐらとじどうしゃ』『もぐらとずぼん』の2冊ですが、ストーリーを話してみると、主人が読んでいた本は『もぐらとずぼん』のようでした。旅の間、二人で懐かしい懐かしいと話しながら、自分たちが読んだ絵本のチェコ語版を探して買って帰りました。

 旅行から帰って、日本にいる母にこのことを話すと、私が子どものころ読んでいた絵本は、今でも実家に大切に保存していることを教えてくれました。たくさんある絵本の中から、母が小さな私に選んでくれた絵本、同じ頃遠く離れた場所で主人も読んでいた絵本。
 そして、ここヨーロッパでの貴重な思い出も加わって、ますます大切になったこの絵本たちを、今度は夏に生まれるお腹の赤ちゃんと一緒に読める日が今からとても愉しみです。(もりのうち・ともこ)

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