絵本のちから 過本の可能性
「絵本フォーラム」58号・2008.05.10

第4期「絵本講師・養成講座」を
受講して

絵本との関わりにおける私の履歴
鴫原   晶子 (第4期修了生・東京)

「もう一回、読んで」は読み手への評価

 保育者を目指していた学生時代に、松居直先生や、松岡享子先生の特別講話を受講し、絵本が大好きになりました。そして幼稚園教諭になる前に、老後は「子どものための家庭文庫」を開きたい!というひそかな夢を持ちました。
  以来約 30年、やみくもなる絵本収集が始まり、増えていく蔵書の整理と管理に音をあげることもしばしばでした。幼稚園教諭時代は自分の好きな絵本や新刊の絵本を中心に、子どもたちに読み聞かせをしたり、絵本の研修会や講演会に参加しました。特にデュッセルドルフ市の日本人幼稚園に勤務していた時は、子どもたちが「これ読んで!」と保育室の本棚から持ってくる絵本を、時間の許す範囲でできるだけ読んであげました。
  『おさるのジョージ』を続けて3回持ってこられた時は、さすがに2回で勘弁してもらいましたが、日本の文化に親しんでいない幼い子どもたちと、絵本の世界で「日本の言葉」を含めて色々な体験を共有したものです。

 現在は、専門学校で保育者の養成に携わっていて、近い将来は保育者に、その先には親になる学生達に、毎回授業のはじめに絵本を読み、絵本の素晴らしさ、大切さを、私が経験して来たことを中心にしながら伝えています。
  「絵本」の授業ではないのですが、実習園で、学生は子どもたちに絵本を読みます。その時に、子どもたちに出来るだけ心地よい時間を過ごしてもらうためのポイント(年令や季節に合った選び方、読む時のアドバイスなど)を、絵本の紹介とともに、実践を通して伝えています。
  早い話しが、子どもたちから「もう一回、読んで!」といわれるのは、その絵本が面白かったから。いいかえれば読み方が上手であった証し、と私は思っています。上手に読まなくてもいいのです、と言われる方もいらっしゃいますが、それは親子の間でのこと。他人に読み聞かせる時は、心を込めて上手に読んだ方がいいと思うのです。絵本って面白いね、楽しいね、だからもう一回読んで…ということにつながるのではないでしょうか? 子どもの「もう一回読んで!」は読み手への評価であると考えます。そのひとことが、絵本好きにはたまらない言葉で、「もう一回読ませて!」という気持ちにさせてくれます。上手に読む方法は、一人一人に任されていることではないでしょうか。

 最近になって、勤務していた幼稚園で、月に一回「絵本のおばさん」をやらせてもらえるようになりました。かつての教え子達何名かが、園児のママになっていました。子どもの反応は嘘をつきません。面白くなければ別なことをして遊び始めてしまうかもしれません。
  集中して絵本の世界に入り込んでいる子どもたちを見ていると、日々の保育の豊かさ、暖かさがわかります。「絵本は大人が子どもに読んであげるもの」、という松居先生の言葉は絶対に忘れてはいけない言葉です。

絵本講師としての質を高めていきたい

 私は、中川正文先生の『絵本・わたしの旅立ち』を購読していて、この絵本講師・養成講座のことを知りました。
 講座では、様々なお立場の著名な先生方のご講演を伺い、実際に森先生の絵本講座を受講し、初めて出会った受講生や修了生の方々との交流などを通して、学ぶもの、得るものは本当にたくさんありました。
  しっかりと構築されたカリキュラムに従って、絵本のいろはから学び直す事が出来ました。リポートの課題は回を重ねるたびに難しくなってきました。
  学生達にリポートの提出期限を厳守するようにいっているのだから、私もそれは遵守しなければいけません。彼らもこうして苦労してリポートを仕上げているのだなぁ、と共感するとともに、学生は多教科に渡って次から次へと遠慮なく課題が提示されている事実を見れば、私にはこの課題だけで、締め切りも約一カ月あるのだから、頑張るぞ!と自身を励ましながら取り組みました。
  誘い合って参加した教え子の市川元子さんとは情報交換をしたり、インターネットで文献を購入してもらったりと支えてもらいました。

 藤井先生が、何度もおっしゃった「絵本を読む時に大事なことは、相手に敬意をもつこと」これも絶対に忘れてはいけない言葉だと思います。 1年間の講座を終えて、絵本講師・養成講座の修了書をいただいただけではなく、たくさんの方と出会えたこと、新たな希望を持てたことは、大変嬉しいことです。そして私が若い頃抱いた「子どものための家庭文庫」を開設する、という老後の夢が何年か後に実現できそうです。その準備とともに、今後も学びを深めながら、しばらくは若い学生を相手にして、絵本講師としての質を高めて参りたいと思います。


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