私の絵本体験記
「絵本フォーラム」57号(2008年03.10)より
「 リンクする絵本と生活 」
山本 美穂 さん(兵庫県宝塚市)

 「んっくんね、んっくんね」。あれは息子が1歳を迎える少し前だったか……ある日突然この言葉を発するようになった。何のことだろう? 考えてもさっぱり思いつかない。そしていつものように絵本を読んでいた時のこと。あるページにさしかかるとまたあの言葉が出てきた。「んっくんね、んっくんね」。そしてその小さな人差し指が絵本の中の階段を指していた。『ころころころ』(福音館書店)の中の階段が出てくる場面である。息子が寝静まってからも私は絵本をめくり考えた。

 あ!「いっちに、いっちに!」が言いたいんだ。そういえば階段を上る時、無意識にいつも「いっちに、いっちに!」と声をかけていた。息子はこれが言いたかったのだ!この発見から絵本と生活がリンクし始めた。まだ言葉を習得していない息子の言いたいことが気持ちいいほど伝わり、目に見えない絆を感じる毎日。

 お風呂上りに窓からお月様を眺めて深々と頭を下げているのは『おつきさまこんばんは』(福音館書店)であったり、脱げない靴下を引っ張りながら「うんとこしょ、どっこいしょ」と言ってるのは『おおきなかぶ』(福音館書店)であったり……。絵本と生活はますますリンクし、我が家の生活を元にオリジナル絵本も描いた。

 3歳になった今、絵本の生活から始まった本を通じてのコミュニケーションは、絵本の読み聞かせはもちろん、地図を見ながら一日を振り返り、分からないことや不思議に思うことを図鑑で一緒に調べるなど、情報過多のデジタル時代に生きる、良きアナログ人間になっていることをどこか嬉しく思う。

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