こども歳時記
〜絵本フォーラム第55号(2007年11.10)より〜
どんな想いを胸に抱いた一年でしたか?  

 「カサカサッ」風に吹かれてきた大きな落ち葉を踏み踏み、その乾いた音と感触を楽しみながら幼稚園へ向かう日々が続いています。
  秋が深まり冬に移り変わっていくこの季節、それは同時に一年の締めくくりの季節でもありますね。子ども達はどんな体験をし、どんな想いを胸に抱いた一年だったのでしょうか。
  親子で一緒にそんなことを振り返ってみるのも、この時期にふさわしい過ごし方かもしれません。

 素敵な体験を描いている絵本があります。『はしれ!チビ電』(もろはしせいこう作 /童心社)です。
  夏休みの終わりのある日、子ども達は台車と大きなダンボールで電車を作り始めます。途中で仲間が増えたり、楽しい空気がどんどんいいアイディアを生み出したり、夢中で作り上げる子ども達。そこで偶然、仲間の一人が転校することを知り、皆言葉につまります。
  しかしそれからが素敵です。誰もが転校する子を気遣います。一緒にいられる今の時間を大切にしよう、大事に過ごそうという想いがひしひしと伝わってきます。そして夕暮れの帰り道に交わされる言葉…胸が詰まります。
  子ども時代に同じような気持ち、経験を持つ方も多いのではないでしょうか。そして幼くても何かを感じるのでしょう、3才の息子も大好きな本です。(親子で心を揺さぶられる…絵本の醍醐味ですよね。)


『はしれ!チビ電』
(童心社)
知ることは、防御策の第一歩

『いま、子どもたちがあぶない!』
(古今社)
  

 それに比べて、今の子ども達の時間の過ごし方に不安を覚えます。公園で数人並んでベンチに座り、皆それぞれのゲーム機に必死に興じている姿を何度となく見かけています。それが仲間なのでしょうか。そのように過ごした時間は、いつ思い返してもキラキラ輝くような思い出に、心の糧に、果たして成り得るのでしょうか。

 『いま、子どもたちがあぶない!』(斎藤惇夫他共著/古今社)という本の中で「今、それも待ったなしで、子どもとメディアの問題を考えなければならない」とあります。
  この本は『子ども・メディア・絵本』というタイトルのセミナーを文章化したもので、会話形式でとても読みやすく書かれています。小児科医、児童文学者、元保母、幼児教育学者のそれぞれ著名な 4人が、様々な角度から、メディアの子どもたちに対する影響をわかりやすく語り、またメディアを乗り越えていく道を、更に絵本の活かし方をも示唆してくれています。
  私もほんの2年前までそうでしたが、実際に子育て中の方々で、そのようなメディアの恐ろしさについて詳しく知っている方は案外少ないのではないでしょうか。知らないまま社会に流されて、子どもを危機にさらしているという背景も多いのではないかと思います。
  そんなことにならないためにも、ぜひ子どもが寝た後の「ほっとタイム」に、この本を手にとっていただきたいと願います。知ることは、防御策の第一歩だと思うのです。

これから子どもにプレゼントを買う機会の増える季節です。キラキラ輝く思い出がたくさん作れるような、そんなプレゼントを選んであげて欲しいと思います。

(なかむら・りな)


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