私の絵本体験記

「絵本フォーラム」113号(2017年07.10)より

「こころに愛を絵本とともに」

MARQUILLY 三鬼 津紀 (フランス)

こころに愛を絵本とともに 娘が10歳になり、私が母となって10年がたちました。私の母は、私が10 歳の時に余命半年と宣告され、それから2年間の闘病生活を終えて他界しました。その2ヶ月後に父も交通事故で他界したので、私たち姉弟はそれぞれ親類の家に引き取られ、私は3年間叔母の家でお世話になりました。

 フランスで暮らすことになり、娘を授かりました。慣れない外国で一人育児をしていると、時々、私も母と同じように娘を残して死んでしまうのではないかという根拠のない不安がふつふつと湧き上がってきました。育児に不安になると「母がいてくれたらよかったのに」と思うことも、たびたびありました。

 そんな時は、居心地の良かった幼少期をよく思い出しました。田舎の風景、些細な出来事、読み聞かせてもらった絵本・昔話、わらべうた・童謡などが次から次に浮かんできます。娘への読み聞かせの後に、私が両親や祖母に絵本の読み聞かせをしてもらった時のことなども話します。すると娘はとても喜んで聞いてくれて、あっという間に時間は過ぎ、私もいつの間にか不安を忘れてしまっていました。

  一緒に過ごした期間は短かったけれど、私を慈しみ育ててくれた両親や祖父母の存在、聞こえるはずのない声、触れることができない手は、心の奥底に残してくれた様々な思い出とともに、30数年経っても変わらず私を包み込んでくれます。

  私もいつまでも消えない愛を、絵本とともに娘に残していきたいと思います。
(マーキリー みき つき)


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