たましいをゆさぶる子どもの本の世界

 

「絵本フォーラム」第111号・2017.03.10
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ヒト ハ ワスレル  ヒト ハ クリカエス  ヒトの属性を問う

「ヒト ニ ツイテ」(絵本塾出版)

 

五味太郎「ヒト ニ ツイテ」 粗く軽い言葉を吐く世界の為政者たち。物騒で危なっかしい言葉の交換も外交上で飛び出す。「ポスト・トゥルース(真実)」の時代というらしい。

  玉石混交の情報爆発時代に多様なメディアが輻輳して事の真偽を確認することが容易でなくなった。で、自分の意に反するメディアの意見はすべてウソだと強弁するアメリカ大統領や、憲法に違背する文言だから「戦闘は武力衝突と言い換えることとする」という腰の抜けそうな答弁を繰り返す我が国の防衛大臣がでてきた。秩序を失いつつある世界ではテロや戦闘があいついでいる。

  歴史の発展則で少しずつ積み上げられてきた自由・人権や立憲主義・民主主義という考え方が危うくなっていないか。歴史の因果則がはたらき、何度目かの戦争の世紀へ逆戻りしはじめていないか。科学技術の進展とはベクトルを違えて、人間社会の劣化も進展してきたように思えるのは、ぼくだけではないだろう。

  ヒトは、生物学分類ではサル目ヒト科ヒト属の動物でサルの仲間である。けっしてサルと別種のものなんかではない。なかでは直立二足歩行ができる大型類人猿のオランウータンやチンパンジー、ゴリラに近い。かれらは、自然の理の範囲内で家庭や社会を創り出してきた。サルたちより少しばかり脳みそが大きいぼくらヒトビトは、かれらにできない多くのことを可能にした。しかし、そんな知恵や工夫はときにおびただしいヒトビトを死に追いやり、苦難に陥れたりする。

  劣化するヒトビトの社会をうれえてばかりでもまずいだろう。ならば、ヒトを素裸にしてヒトの原点、ヒトのできることの原点を見直すというのはどうか。

 傑人というか、異色な作家というか。そんな五味太郎が四半世紀前にヒトの属性というのだろうか、ヒトの行いのいくつかを明瞭に描ききり、明確に語り放ったのが「ヒト ニ ツイテ」だ。名作は二度目の復刊を果たしている。

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 舞台はおおむね林か森(?)。登場するのは素裸の長髪の男と宇宙船らしきものから降り立ったと思われるタコのような生物体(宇宙人?)。で、作者は、ヒトの属性の数々を骨太で魅力いっぱいのイラストで絵解きしながらテキストでつぶやいていくのだ。

 宇宙人(?) を見つけた男は、まずは「ヒト ハ ミル/ヒト ハ カンガエル」。そして、生け捕りを考えたのか。「ヒト ハ クフウスル/ヒト ハ マツ/ヒト ハ トラエル」と展開するのである。で、宇宙人(?) への関心が生まれて「ヒト ハ カウ/ヒト ハ セワ ヲ スル/ヒト ハ カワイガル」と愉快に物語に転じていく。

 不思議なことに研究室まで描かれて、学習したり、研究したり…、「ヒト ハ マネスル/ヒト ハ マネサセル/ヒト ハ カンサツスル/ヒト ハ ケンキュウスル」。

 ところがだ。「ヒト ハ タベサセル」と寝食をともにするが、残酷にも、宇宙人(?) を「ヒト ハ タベル」と食べてしまうのも素裸の男であり、ヒトなのだ。

 それを気に病む男の心情を作者は「ヒト ハ キニスル」/「ヒト ハ ワスレナイ」と、墓をつくって祈りをささげさせたり、「ヒト ハ ユメヲミル」と夢間に宇宙人(?) を登場させたりしたものの、やはり、「ヒト ハ ワスレル」とも語り、苦悩の思いもつぶやくのである。そんなヒトの属性の結句に「ヒト ハ クリカエス」とあるのがいかにも重く胸に突き刺さる。

  ”二度とくりかえすまじ”を合言葉とした被爆国日本、あるいは世界で戦争を惹起してきた世界の国々のヒトビトは、果たして…。[アヤマチ ヲ クリカエサナイ]という属性を身につけることができるのだろうか。

「ヒト ニ ツイテ」五味太郎、絵本塾出版

 

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