私の絵本体験記

「絵本フォーラム」108号(2016年09.10)より

絵本の世界は日々の暮らしの中

星野 めぐみ(大阪府大阪市)

星野めぐみ 絵本の世界は日々の暮らしの中 絵本を読んでもらった記憶のない私。そんな私が今絵本を読んでいます。子どもたちに、孫たちに。そして初めて気づいた事がありました。

  『くだもの』(福音館書店)の中の言葉、《すいか さあ どうぞ。》、(あっ、この言葉、私も母にずっと言ってもらってた。「さあ、どうぞ召しあがれ」と)。『ルリユールおじさん』(講談社)の絵は、青の世界。私の好きな色は紺やサックス。母が青を好み、いつも「よく似合うねえ」と言いながら着せてくれた洋服の色と同じ。

 絵本を読んでみてはハッとすることが沢山ありました。私は、自分を育ててもらった世界が、絵本の中にきちんとあることに今ごろ気づいたのです。母が絵本にある世界を私の日々の暮らしの中に、大切なものとして納めてくれていたのです。それが私の中のあたたかい絵本の記憶なのだと今ごろ気づきました。

 先日、母に(ありがとう!)の気持ちを込めて、母の暮らしぶりそのままのような絵本を届けました。『Life ライフ』(瑞雲舎)です。米寿も近い母は、この絵本の中の、小さなお店で人々が心をつないでいくあたたかいストーリーに自分を重ねたようです。またやさしく描かれたお家や木々草花の絵に癒されて「毎日手にとっては見て、そして眠る前にはゆっくり読んでいるの」、と嬉しい言葉を私にくれました。「素敵な絵本をありがとう」と何度もかさねて。

  私はこれからもこの絵本の記憶に温められて、絵本を届けていくでしょう。子どもたちに、孫たちに、そして母に……。
(ほしの・めぐみ)


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