子どもにとって短く、大人にとって長い「夏休み」が終わりました。子どもたちは、宿題、自由研究、ラジオ体操、夏祭り、プール遊び、お墓参り、田舎に帰省など、それぞれの夏休みを送ったことと思います。
夏休み中、我が家の子どもたちのブームは言葉遊び。メロディーやリズムに乗ってテンポよく何やらしゃべっては笑いあっていました。なかには、若手お笑い芸人の「リズムコント」のようなものを真似ているものもあるようで、決して意味は分かっていないのですが、言葉のリズムを楽しんで、そこからひたすら自己流のコントを展開していました。
流行語というものが毎年生み出され、同時に死語となって忘れ去られるものも多い今の日本。常に生み出され続けることはある意味素晴らしいのですが、言葉とは言霊の宿るもの。もっと大事にしていきたいと思うのです。
『日々の非常口』(アーサー・ビナード/著、新潮社)は、絵本の翻訳家でもある著者が日本で過ごす日々を描いた一冊。読者の思考がゆきづまりそうになったとき、違った視点から見ることでその袋小路から出られる非常口の役割を果たせたらという思いで描かれたエッセイです。「日本語を勉強して一番難しかったこと」としてあげられる「月極」。町中の駐車場には「月極」の看板があふれており「これはどうやら大企業で駐車場市場を独占している一部上場」「ゲッキョク株式会社か」と不思議に思われたそうです。そんなとき、著者はすぐ国語辞典をリュックから引っ張り出し調べます。言葉の意味を調べて納得することが、習得に繋がります。読み進めると日本人より日本通の著者。おそらく多くの日本人が子どものころ心に浮かべたであろう感覚がたくさん詰まったエッセイです。
私にも、同じような体験があります。マンションなどあちこちの建物に見かける「定礎」。そのプレートはどれも大理石のようなものでできており、中学生の私には大きな表札にしか見えませんでした。私は建築界を牛耳っている大御所「定礎さん」が、竣工祝いで自分の名を掲げたものなのだと思い込んでいました。改めて調べてみると、この「定礎」のプレートは、関東大震災の教訓から、竣工年月日など建物の情報を埋め込まれるために作られたものだそうです。その裏側には定礎箱というものがあり、建物の図面、定礎式当日の新聞、式典の時の名簿など、解体されるまで開けられることのないタイムカプセルが隠されているのです。それを知って以降、プレートを見ても、大御所「定礎さん」を思い浮かべることはなく、少しロマンチックなミステリアスな箱があの裏には隠されているのだと思うようになりました。日常にもっと目を向けて、耳をそばだてて、疑問に感じたら、調べる。するとたくさんの素敵な意味が見つかるはず。そういう秋の日々を、私も子どもたちも送ることができたらと思います。(かとう・みほ)
加藤 美帆(絵本講師)
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