絵本のちから 過本の可能性
現場からの報告…3
「絵本フォーラム」22号・2002.05.10
 ―父母・保育者と地域の方々の輪で、子どもたちみんなが「生活の主人公」に―山形市のたつのこ保育園(峯田裕美園長)は、ゆたかな自然に囲まれたユニークな園です。
 山形・たつのこ保育園 


 たつのこ保育園の1階はオープンスペース。3歳以上の子どもたちが、年齢をこえて交流しています。また、めぐまれた自然環境を生かし、園舎はすべて遊び場として開放、晴れた日には必ず散歩に出かけるなどして、子どもたちが土、水、風、そして太陽と体いっぱい、心いっぱいにふれあうことを大切にしています。
つくし・たんぽぽ・
よもぎ、おいしいね



 今日、子どもたちは、朝の散歩で見つけた“つくし・たんぽぽ・よもぎ”を園に持ち帰り、天ぷらにしました。揚げたのは先生ですが、下ごしらえは子どもたちが自分でやったんですよ。ほのかな土の香りを楽しみながらいただく“春の足音”はとてもおいしく、子どもたちも大満足でした。

 園には現在、約3,000冊の絵本があります。自然とのふれあいと同じように、子どもたちと絵本とのふれあいもとても大切だと考え、絵本コーナーだけでなく、いつでも子どもたちが手に取れるような場所にも置くようにしています。絵本の「読みきかせ」は、すでに園生活の大切な一部になっていて、朝のお集まりの前や、お昼寝の前、お帰りのときなどに行っています。テレビやビデオなどにたよる保育ではなく、読みきかせによって、身の回りにあるすべての事物に深い関心をもち、よく見つめ、考え、表現し、行動できるちからを育て、感性ゆたかな子どもになってほしいと願っています。

年少の子どもたちが
焼き芋大会

 そんな絵本と子どもたちにまつわるエピソードをひとつ、ご紹介しましょう。春先から花の蜜を吸ったり、散歩の途中でもらったカリンを砂糖漬けにして食べていた年少の子どもたちが、秋に『くいしんぼのもぐら』という絵本に出会いました。
 食べることが大好きな子どもたちにとって、絵本の中に広がる焼き芋のいいにおいは、すばらしく魅力的だったらしく、「ぼくたちも食べたい」という強い意志となって表れました。そして、年長の子どもたちの手を借りて、ついに焼き芋大会をやり遂げたのです。
 一冊の絵本をジャンプ台にして、子どもたちの興味・関心・意欲がどんどん高く飛躍していき、すばらしい体験として着地したのです。そしてまた、その体験をバネにして、子どもたちはもっと高く飛躍していくことでしょう。絵本には、本当に計り知れないちからがあることを教えられた出来事でした。


大人がワクワク
することが大事

 春、たつのこ保育園に入園したばかりの0歳児、1歳児の保護者に、「お家で絵本を読んであげていますか?」と尋ねると、多くの方が「エッ?」という表情をされます。絵本にふれたこともないという子どもたちが大勢いるのです。でも、そういう子どもたちも、園で読みきかせを続けていくうちに、お気に入りのおもちゃと同じように、絵本を食べて(!?)味わい、指先が使えるようになると、ページをめくっては、そこに描いてあるものに驚いたり、ニンマリしたり……。どんどん絵本と仲良しになっていきます。
 また、1人の子に読みきかせをしていると、そのうち2、3人の輪になり、いつのまにやら大勢で絵本を取り囲んでいるということが、よくあります。みんなで絵本の読みきかせを楽しむときの子どもたちの心には、1人で読むときとはまた違った味わいのドラマが生み出されているようです。そうしてたくさんのドラマを体験しながら、子どもたちは少しずつ“友だちと一緒”が楽しめるようになっていくのです。
 この小さな小さな共感関係を土台にして、子どもたちは仲間との絆をより強いものにしていきます。絵本には子どもたちの心を育てる不思議なちからがあるのです。
 「今日はどの本を読もうかな」大人がワクワクする。きっとこれが大事なことなのでしょう。これからも、子どもたちとたくさんの絵本を読んでいきたいと思っています。
(報告・釣本二三枝)

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